ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第10章 檻の中のLynx
私の部屋はいつもガランとしていた。
いつ部屋を離れることになっても、すぐに支度できるよう最低限の荷物だけをコンパクトに隅に置いて。
家具は備え付けのものを使うだけで、日用品はもしもの時に持って出れなくても後悔しないようなものを買っている。
ソファに三角座りをして、窓の外を眺める。
私の頭の中には夢見が悪かった時、「今日だけ特別だ」と抱き締めてくれたアッシュが浮かんでいた。
もうアッシュと会えなくなって2ヶ月近くになる。
こんなにアッシュと離れて過ごすのは、突然公園に姿を見せなくなったあの時と、15歳でアッシュがオーサーに嵌められて少年院に入った時以来だ。
恋人ではないし、近くにいたって必要以上の触れ合いはないけど、彼の姿が目に入るだけでとても安心した。
『…アッシュ、今どうしてる?』
目を瞑り、両腕で自分の肩を抱き締める。
抱き締めてくれた彼の体温を探すように。
『…今度はいつ…ッ特別な日が来るの?』
目に涙がじわっと浮かび、手で目を覆う。
ふと、手首の傷に目がいく。
ーー「…あ?お前この腕の傷どうした?」
ーー「お前らしくないな、…ほら」
ーー「いいから…」
瓶の破片で切った傷は
…だいぶ小さくなってきた。
アッシュのおかげだ、と嬉しいような、彼の面影が消えて欲しくないような複雑な気持ちだった。
アッシュが舐めてくれた傷、
彼の熱い舌が這った場所…。
私はゆっくりと傷に唇を近付ける。
『…ッ』
そのまま何度も何度も唇を押し付け、
舌を這わす。
『……んっ…ハァ…』
すっかり息は上がり、鼓動も早く、
カラダは熱を持っていた。
『…ッ…アッシュ…』
自然と零れた彼の名前にハッとする。
私…バカだ。
アッシュとのキスを想像してこんなになるなんて…。
情けなくてまた涙が込み上げてくる。
『……うっ…もう、…げんか、い』
『会い、たい…っ…会いたいよ…』
ブーッブーッブーッ
突然テーブルに置いていたスマホが震えた。
『!……、誰…』
画面を覗くと、
『…ショーター?』
ティッシュでぐじゅぐじゅになった目や鼻を拭くと、ハーッと息を吐き呼吸を整える。