ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第10章 檻の中のLynx
《英二side》
出先で突然伊部さんが話があると言うので、張大に寄ることにした。
「英ちゃん、日本に帰ろう。」
「そんな!いやですよ!日本に帰るなんて!…どうして急にそんなこと言うんですか!最後まで見届けてやろうって言ったの伊部さんじゃないですか!」
「事態が変わったからだよ、これはあまりにも危険すぎる!…連中に君が山猫の番と親しいことがわかってしまったんだぞ!いつまた狙われるか!」
「…ユウコはどうするんですか、急に1人にするなんて僕にはできない!」
「それは俺だって同じ気持ちだ、でも!これは現実に起こってることなんだよ、
ーー現実のコルシカ・マフィアの世界なんだ。日本じゃない。…そんな所に君を置いておけない。俺は君にもしものことがあったら、君の両親に顔向けできんよ…。」
「伊部さんの仰ることはわかります…アメリカへ連れてきてもらったこと、感謝してます…でも、僕は帰りません、帰れないんです!!」
「だめだ!一緒に帰るんだ!!」
その時、店員さんが僕たちを呼んだ。
「“彼”が危ないわ、今知らせがきたの。」
僕たちは急いで病院に向かう。
中へ入ると、ドラマの世界かと思うほどの光景が広がっていた。
「先生、…だめなんですか?」
伊部さんが聞く。
…だめって何がだよ、
「…12時32分、残念だ。もう少し設備の整った病院へ連れていければ…」
…そんなことって。
「アッシュに…なんて言ったら…ユウコは?2人にはなんて言うんですか…」
「チャーリーに話そう…」
「伊部さん!?」
「…これは俺たち素人の手に負えることじゃない。今までのことを全部話そう。」
「俺もそれがいいと思うぜ…なんたって相手が悪すぎる。」
連絡があったと同時に駆けつけていたショーターもそう言う。
「アッシュには…今は話さん方がいいと思うんだ。刑務所の中にはゴルツィネのスパイがいるはずだ…アッシュが兄さんの死を知ったら、いくら彼でも冷静ではいられないだろう。…その隙を狙われるかもしれん。」
「…ユウコには俺から話すよ。」
「ショーター…大丈夫?」
「ああ、なんたって…俺はパパだぞ?…“大丈夫”、だよ。」
「…頼むよ。…でもアッシュにもいつかは話さなきゃいけないでしょう?スキップの次は兄さんだなんて…」
「チャーリーに電話を掛けてくる。」