第1章 いのち短し恋せよ乙女
翌朝目覚めると龍之介は既に目覚め、部屋のテラスでコーヒーを飲みながら優雅に新聞を読んでいる。
「ようやく起きたか。全くポートマフィアの一員と言うのに、よく平気で寝続けられるものだな。」
その憎らしい一言で昨日の訳の分からない行動への苛立ちが、また再燃してきた。
「ちょっと、龍之介、昨日からそうだけど、折角一緒に旅行に来たのに一体何なの?」
「それについては、謝罪する。」
意外にも彼は素直に謝ってきた。それだけ言うと、少し出掛けてくると言って、私を置き去りにしてどこかへ行ってしまった。
部屋にぽつんと置き去りにされ、私は急に寂しさと悔しさを覚えた。正直に言えば何で恋人同士になったのかとか、凄くネガティブな事ばかり考えだして、それが坂を転がる石の如く思考が止まってくれない。確かに私みたいな脆弱な、異能力もないノーマルな人間と軍警に指名手配されるような凶悪犯が恋人同士と言うのは、あまりにも現実離れしている。彼にとってやはり私は恋人では無いのかも知れない。
そうしてだんだん気持ちが昂って、とうとう涙が溢れ出す。一人ぼっちで、ベッドの上に芋虫のように丸まって、子供のように泣きじゃくった。そして、とりあえず携帯に彼から何か連絡は入ってないかとついつい見るが、梨の礫で。そこから余計に落ち込んで、もう泣く気力も無く、気付いたら眠ってしまっていたらしい。
次に目覚めたのは15時頃で、ホテルのボーイが訪ねてきた呼び鈴に起こされた。
「失礼します、シニョリーナ。こちら、お届け物でございます。あと、こちらはシニョールアクタガワからのお手紙と、ご依頼されていたヘア&メイクアップのスタッフをお呼びしました。」
と、ホテルのボーイはこんな感じの事を言うと退散してしまった。部屋には、大きめの平たい箱が3つと龍之介からの手紙とヘア&メイクアップスタッフだという金髪のイタリア人美女と私だった。落ち込んで泣きじゃくった後のぼーっとした所に、訳の分からない状況がまたも起こった。そして、あれよあれよという間に、ヘア&メイクアップスタッフとかいう金髪イタリア美女が私の顔を弄り始めた。