第1章 いのち短し恋せよ乙女
ホテルに着いたその日はもう午後で、移動で二人とも疲れきって、シャワーを浴びるとそのまま眠ってしまった。
翌朝目覚めると天気は良好で、朝食もそこそこにヴェネツィアの街に観光へ繰り出すことにした。
私達がやって来たこの時期は、気候的には寒さが残っているが、丁度カーニヴァルの時期だった。街の人々は煌びやかな衣装と艶やかな仮面を手に闊歩している。その様子は見ているだけでワクワクする。私自身がそれを狙って来たのもあるが。ところで龍之介はと言うと、正直こういう人混みを彼が好むとは思えないし、今も表情は不機嫌な方だ。
ちょっと可哀想な事をしたなと思い、はしゃぎたい気持ちを抑え、主だった観光スポットであるサン・マルコ寺院とドゥカーレ宮殿を見学するのみで、午後はゆったりホテルで過ごそうかと考えていた。人混みの中で逸れないようにお互いしっかりと手を繋いで歩いている時、私はふと余計な一言を言ってしまう。
「あはは、凄い人だね。もう少し人の少ない時期にすれば良かったね。」
なんて見え透いた嘘をついてしまった。
「ふん…。」
そんな私の魂胆を見透かしたのか、少しむくれた顔をしていのを私は気付かなかった。