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文スト夢短篇集

第1章 いのち短し恋せよ乙女


そうして暫く空港のベンチで彼の具合が良くなるのを待っている間、私はヴェネツィア本島へ入るのに水上バスに乗りたいなと思っていたが、彼がこんな状態なので陸路で入る方法がないか検索していた。

「済まない、待たせた。それで、ヴェネツィアとやらにはどうやって行く?」
ゴホッと咳き込むと、もうすっかり平気な顔をして彼はスーツケースを手に私に訪ねてきた。彼の平気な顔は大概無理をしていると言っても過言ではない。が、そんな事を聞けば彼は臍を曲げるに決まっている。水上バスの方が圧倒的に早く目的地に着く事が分かったが、体調の悪い彼に無理はさせられない。せっかくの休暇に水上バスと張り合う恋人なんて見たくはない。
「そうだね、バスがもうそろそろ来るみたいだから、それに乗ってホテルまで行こっか。」
「そうか。行くぞ。」

そう言うと何処にバス乗り場があるのか分かっていないのに、先に行こうとする。それでも彼は彼なりに私の恋人として、私に背を背けたまま右手を差し出す。私はクスリと笑うとその差し出された手を繋いだ。

「なんだ、何か可笑しかったか?」
彼は少し怪訝そうに私を見つめる。
「ううん、なんでもないよ。ただ、手を差し出してくれたのが嬉しかっただけ。」
そう言うとふいっと顔を背けた。気のせいか耳が朱に染まったように見えた。そんな様も私には愛おしくて、彼の手をぎゅっと握る。
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