第2章 不思議の夢の歌劇愛好家«ミュージカルマニア»
鴎外様とエリス様が、普段と変わらない痴話喧嘩(?)を始めた所へ今度はセットの扉をノックする音が響く。
「オウガイ公爵殿、私です。失礼しても宜しいですか。」
「おお、そのお声はアンゴ陛下!
わざわざ娘の見舞いに来てくださったのですかな?どうぞ、お入りください。」
「まぁ!なんてヤツなの!貴方のせいでは飛び降りたのよ!」
「エッ、エリスちゃん!?畏れ多くも皇帝陛下だよ?お願いだからそんな口の利き方しないでおくれ〜!」
と、ノックの主に憤慨するエリス様とそれをタジタジになって宥める鴎外様。そんな2人に構わずノックの主は登場した。
「失礼します。」
そう言って、扉から現れたのは同僚の安吾さんだった。さっきから何故か身近な人達がこのパロディミュージカルに登場する事に、私はいくらか慣れてきてしまったらしい。
そして、察するに安吾さんの役は、ヒロインの夫にして皇帝陛下のフランツ・ヨーゼフ帝役なのだろうと思われる。安吾さんと一緒に仕事をしていて思うが、彼は仕事に厳しい。そんなところがミュージカルの厳格な皇帝陛下のイメージと合うなぁと私はぼんやりと安吾さんを見つめていた。
また安吾さんはとても端正な顔立ちをしているので、キリッとした皇帝陛下の衣装がとても似合っていた。金糸で刺繍が施された赤の詰襟と袖が付いている白い燕尾のようなの上着に、金糸の側章の赤いズボン。胸元には幾つもの勲章と、右肩からはこれまた紅白の襷と黄金色の腰帯を身に着けた、凛々しい軍人姿である。
「さん、先程使いの者から貴女が木の上から飛び降りたと知らせを受け、いても立っても居られず、こちらまで出向いてしまいました。」
安吾さんは、少し苦々しい表情でベッドから半身起こしていた私に話し掛けてきた。
「陛下、と積もる話もおありでしょう。私達は失礼しますので、どうぞお話し下さい。
さっ、エリスちゃん、2人にしてあげよう。」
「お気遣いありがとうございます、オウガイ公爵。」
鴎外様が安吾さんにそう言うと、エリス様はやいのやいのと安吾さんに何か文句を言っていたが、鴎外様に連れられて退場してしまった。