第2章 不思議の夢の歌劇愛好家«ミュージカルマニア»
「ねぇ、起きて!、起きて!」
誰かが私の体を揺さぶっている。目を開くと前には、青い瞳にキラキラ輝く金髪の美少女、エリス様の可愛らしいお顔が広がっている。舞台は先程より明るく、私は天蓋付きのベッドに臥していた。
エリス様は、ポートマフィアの首領である森鴎外様の愛しいお嬢さん(?)である。時たま、業務の報告に鴎外様にお会いする事があったが、そんな時エリス様はとても私に親しくして下さっている。そんなエリス様を前に寝っ転がっている訳にはいかないと私は慌てて起き上がった。
「わわっ、申し訳ございません、エリス様!」
「良かった、起きたのね!、ごめんね。お父様が貴女を皇帝陛下のお嫁さんにしようとしたから、それが嫌で木の上から飛び降りたのよね。私がお父様を懲らしめてあげる!」
と、まるでおままごとのお母さんのようにエリス様が話す。私は嫌な予感がして、エリス様におずおずと
「あっ、あの〜、エリス様?エリス様がお母様の役という事はもしかして…」
と、話し掛ける。が、次の瞬間、舞台のセットの扉をバンと開けてある人物が登場した。
「うわーん!!エリスちゃ〜ん!!私の愛しい妻よ〜!!
私達の可愛い娘、が木の上から飛び降りたというのは本当か〜い!?」
と、その人物は半べそになりながら登場してきたのだ。
「リンタロー、煩い!なら大丈夫。生きてるわ!安静にしなきゃいけないから、静かにしてよ!
それより私の可愛いを無理矢理結婚させようとするなんて、リンタロー、最っ低っ!」
「そんなっ!エリスちゃん!?
私だって可愛いのお嫁さん姿なんて見たくないのだよ?でも、皇帝陛下がそう望まれたら従うしかないのだよ?」
目の前では、首領の執務室でよく目にする光景が広がっている。ヒロインである私の母親役が、何故か幼女であり、その幼女は、幼女にデレデレの40過ぎの男を叱っている。
そう、ヒロインの父公爵の役はなんと、我らがポートマフィアの首領、森鴎外様だったのである。鴎外様は、後ろ裾が長く、前裾の短い深緑色のウールの上着に、細身の象牙色のズボン、そして黒のブーツを履いている。幼女にデレデレしながら叱られていなければ、本当に公爵様と言われても違和感が無いほどよく似合っていた。