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文スト夢短篇集

第2章 不思議の夢の歌劇愛好家«ミュージカルマニア»


「それから、私の名前はダザイではない。まぁ、キミから呼んで貰えるなら私は、どんな名前でも構わないよ。
私は誰でも無く、誰でもある。つまり私には名前は無い。」
そう謎めいた事を言うと、太宰さんは私の手を引いて立ち上がらせると、サッと私の腰に手を回し、腕の中に抱き竦めた。私は咄嗟の事に、
「えっ、えと、太宰さん、あの、それはどういう意味なんですか?というか、貴方は何の役なんですか?」
と尋ねる。
「私が何者なのか?そうだねぇ。ひ・み・つ。
当てて見給えよ。」
太宰さんは、シーっと唇に指を当てて、艶やかな笑みを浮かべて答えてはくれなかった。

「さて、このまま連れていこうと思ったけど、私が何者なのか気付いてくれないキミは連れていってあーげない。
じゃあねさん、1度お別れだ。」
「えっ、連れていくってどこに連れていくんですか?というか、私はどこにも行きませんよ。」
太宰さんはいつもの屈託のない笑顔でそう言うと、空いていた片方の手を私の頬に寄せ、私の唇を奪ってきた。そして、そっと唇を離すと私を横抱きにして、子供をあやす子守唄のような優しいメロディーの歌を私に歌い掛ける。

ー目覚めた時
キミはきっと私を忘れてしまうだろう
けれど私はいつでもキミの傍にいる

私はキミであり
キミは私である
キミは生きている限り
私からは逃れられない

早く私に気付いて
私は貴女を愛しているのだから
だから今は待っていよう
いつの日にか私の元へ
いつの日にか私を愛してー


驚く間もなく、何故か急に眠気に襲われた。薄れゆく意識の中で、私は悟った。
「そっ…か…、太宰さんが…、黄泉の帝王«デァ·トート»の役…」

そう、ミュージカル・エリザベートのもう1人の主役であり、"死"の化身であるトートが、太宰さんの役であり、何故かヒロイン・エリザベート皇后役になっている私の宿命«オム·ファタル»だったのである。
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