第2章 不思議の夢の歌劇愛好家«ミュージカルマニア»
突然、軽薄な声が響いた。
『やぁ、中也!あっ、間違えた☆
チュウヤ・ナカハラ、とりあえず君、永久にこの煉獄に幽閉ね〜☆』
「おい、待て!太宰、じゃねぇ、天の声!物語が始まんねぇだろうが!」
『え〜、だってさ、君、ヨコハマ帝国の皇后を暗殺したんだよ〜?あんな美しい女性を暗殺しといて、それはないんじゃない?暗殺する位なら私と自殺してくれるように紹介してくれればいいのに〜。
まっ、とりあえずムカつくからそういう事で〜☆』
「巫山戯んな、太宰、じゃねぇ、天の声!返事しやがれ!」
と、舞台上で中原さんが天の声もとい、最年少幹部の太宰さんと思われる声に向かって吠えている。が、それきり返事がない。
「太宰の野郎…。これじゃ舞台が台無しになっちまう。仕方ねェ、続けるぞ。
何故俺がそんな高貴なお方を殺したのかって?俺は頼まれたんだよ、彼女を愛した"死"そのものにな!」
と、ここまでぼけーっと舞台を観ていた訳だが、私はふと気がついた。この舞台、私の知ってるミュージカルに似ている。そう今日、仕事終わりに観に行く予定だったミュージカル・エリザベートだ。
中也さんが客席に降りてきた。そして、私の手をとった。
「さァ語れ、亡者ども!"死"と俺が殺したこの美しき后妃・の愛憎の物語を!」
「えっ?ええー!!?私!?」
そう言うとオーケストラの演奏が始まり、舞台のセットの影から亡者達が歌いながら現れる。私を舞台へ引き上げると、中也さんは舞台の中央へ私を連れていった。そして、私は亡者達に囲まれあれよあれよという間に早替えをさせられている。中也さんは舞台の前方で歌っている。聞き入っている場合ではなかったが、中也さんは本家の狂言回しであり、ヒロインを暗殺したルキーニ役らしく、歌が凄く上手い。
ーさァ、教えてやるよ
ナゼ俺が帝国の薔薇«カエザリン»を殺したのか
彼女が高貴なお方だったから?
そんな俗世なことじゃねェ
俺は憎んだ
美しいあの女を
そして願った
俺だけの女になることを
その時アイツは現れた
俺はアイツから一振りの刃を与えられたのだ
アイツは俺自身であり、彼女自身である
そう!蒼ざめた帝王
生命«いのち»の裏返し
アイツこそ"死"«トート»ー
こうして悪夢のようなパロディミュージカルの幕は上がった。