第1章 いのち短し恋せよ乙女
こうして船旅を楽しんだのも束の間、私たちは目的地に到着した。そこはヴェネツィアでも最古の、格式高いカジノだった。
「さぁ、行くぞ。」
そう言って先に船を降りていた龍之介が手を差し出して、私を陸に上げる。そしてサッと腕を組むとカジノの中へと向かう。いつもならスタスタ歩く龍之介は、今は私のペースに合わせてゆっくりと歩いてくれていた。
カジノの中は私たちと同じような仮装した人々で一杯だった。最初に私達はレセプションでコートを預け、受付をした。私は龍之介に尋ねた。
「ねぇ、これからカジノで遊ぶの?」
そう尋ねれば、
「全く…。さっきから貴様は僕の話を聞いていなかったのか?このカジノには、遊びに来た訳じゃない。まぁ、いい。まだかなり時間がある。覗いてみるか?」
そう言うとカジノルームへと2人で足を踏み入れた。カジノルームの中も仮装をした人達で溢れ、余計に妖しげな雰囲気だった。
「なんだか不思議な感じがするね。」
私は龍之介の腕にぎゅっとしがみついた。何となくこういったギャンブルというのは、少し怖いイメージがあった。
「少しだけ、やってみるか?」
「えっ、ええ!?」
「何だ、負けたら身ぐるみ剥がされて運河にでも棄てられると思っているのか?僕が賭事如きで負ける事などありはせぬ。」
と、私を鼻でせせら笑い、謎の自信たっぷりの態度をとる。そんな彼を見ていると賭事もただの遊びだと思えば、怖くないのかもしれない。
「そうだね。これも人生経験。で、どのゲームをやるの?」
「そうだな、初心者の貴様でもルーレットなら簡単だろう。」
そう言って私たちは、ルーレットの席に座った。