第8章 盗まれたのは
部屋に入って来た早乙女は私のクローゼットを開け、少し考えながら1着のドレスワンピースを出した。
一応お客様を交えての夕食なので、少しよそ行きの服にしたらしい。
黒を基調とした細やかな花柄をあしらえたフレアワンピース。
袖はノースリーブなので、上に白のカーディガンを羽織って完成だ。
靴も黒のヒールが低めのパンプスだ。
「着替えさせ…」
『結構です』
「はいはい、なら俺は扉の前に居るから終わったら呼べよ」
部屋から出て行ったのを確認し、鍵を掛けて着替え始める。
目の前に全身が映る大きな鏡があり、それを見ながら着替える。
そしてふと自身を見て気が付いた。
今まで長い髪の毛を下ろしていたせいか、気が付かなかった、と言うか忘れていた。
首元には安室透に付けられたキスマークと、赤井秀一に付けられた噛み跡が残っていたのだ。
しかもクッキリと。
『ちょっと…これどうするのよ…』
とりあえずコンシーラーで隠せる部分は隠してみるが…。
『当分はアップの髪型に出来ないわね…もしくは首にストール巻くか…』
とんでもないものを残してくれたものだ。
だが、何故だか鏡に映る自分は少し嬉しそうな表情をしていた。
距離的には離れてしまったが、なんだか彼等が近くに居る、そんな気がして。
さて早乙女を待たせるとどんな意地悪をされるか分からないので、早々に準備を済ませて声を掛ける。
扉から顔を出し、私の姿をチェックすると
「皆様お待ちです、行きましょう」
そう言って手を差し出して来たのでそれを握り夕食が用意されているであろうダイニングに向かった。