第5章 潜入デート
着信…沖矢愛香
すぐさま通話ボタンを押す。
「愛香!?今何処に居るんですかっ!!」
思わず勢い良く怒鳴ってしまった。
周りの人間が、なんだなんだと見ているが気にしない。
彼女からの返事を待つと、どうやら屋上にいるらしい。
少し冷静になれ、そう自分に言い聞かせ
「今度はそこを絶対に離れないで下さい、今すぐ行きます」
と言ってすぐに電話を切り、走り出す。
走り出している時点で全然冷静じゃないだろ、なんて毒吐いてる余裕はまだ少しはあるようだ。
頭の中でこの学校の見取り図を確認し、屋上までの道程を導き出し走る。
屋上までに続く階段を上り、ドアを開けると涼しい風が自分を通り過ぎていく。
眩しさに少し目を細めつつ、そこにある人影を見つめると探していた彼女が居た。
彼女はこちらを目を丸くして見つめている。
そんな彼女に心配や安堵、怒りなど色々な感情が渦巻き、勢い良く彼女の方へと進む。
自分がどうゆう表情をしているかは分かっているが、今は安室透の仮面をつける事が出来なかった。
彼女が後退しているのが分かったので、一気に距離を縮めて、抱き締める。
あぁ、彼女は無事で生きている。
そう実感出来た。
いやそれが普通なのだが、自分は普通ではない環境に身を置いているのだ。
「貴方は一体何をしていたんだっ…!
俺がどれだけ君を探したか…。
言っていた場所に君は居なく、携帯にも出ない。
俺はまた…っっ!!」
そこまで言ってハッとした。
自分は今何を言おうとした…?
俺はまた、なんなのだ。
俺は…彼女を失う事を恐れていた、のか…?
アイツを失った時のように。
そこまで考えてやっと気が付いた。
いや、認めたという方が正しいだろうか。
俺はまた大切な人を作ってしまったのだな、と。