第5章 潜入デート
とりあえず時間を潰そうかと、携帯を開き下を向いた瞬間
何か力強いものに引っ張られ、暗くて狭い場所に入ってしまった。
多分掃除用具が何かロッカーだとは思う。
中にちらほら道具が入っているが、人2人入ってもまだ少しスペースに余裕がありそうだ。
人気が少なそうな階段の下付近に居た私が悪いんだけどさ。
背中には誰か分からないが、人の温かみを感じる。
所謂、後ろから抱き締められているらしい。
え、私がストーカー被害にあってんの?
きゃーって叫んだり防衛手段を行使してもいいが、とりあえず騒ぎにはしたくない為、相手の出方を伺うことにした。
すると、何処かで聞いたような声が耳元で聞こえた。
「はぁ…なんか美男美女が来た!って騒ぎになってるから、窓から見たらこの間のお姉さんで、会いに行こうとしたら、シフト入ってるんだから逃げるなー!って青子に捕まるし。
イライラしながら仕事してたら、男と手を繋いだお姉ーさんが来るし。
お姉さん、彼氏居るとか…俺、すげぇーショックだったんだぜ?」
『えっ、あの時の黒羽快斗…君?!
この学校の生徒だったの?』
なんの偶然か分からないが、あのぶつかりそうだった時のナンパ青年の黒羽快斗君はこの学校の生徒だったようだ。
「そうそう。
ちなみにさっきの怪盗キッドコス、俺なっ」
『えぇっ!ビックリ!!
マジック凄かったよ、本物みたいだった』
「ありがとう…じゃなくて!
さっきの男、本当にお姉さんの彼氏?」
『お姉さんお姉さんって…。
自己紹介してなかったもんね。
私は沖矢愛香。
ちなみに安室さんとは付き合ってません。
訳あって彼女役中』
会話している最中でも、この狭い空間で彼の拘束は解かれないみたいだが、とりあえず人と話す時に顔を見ないで話すのは嫌だったのでクルリと向きを変えさせてもらった。
自分から向きを変えたのに、顔の位置が至近距離になってしまったので少しだけ後悔した。
やはり顔を確認したが、黒羽快斗君で間違いないようだ。
「まじか…!良かったぁぁーー…。
まぁ、愛香に彼氏が居ても奪う気満々だったんだけどさ。
居ないにこしたことはないよね!」
そう言い拘束していた手を離し(拘束、と言うか抱き締めていた手、なんだけどね)顎クイされたと思った刹那、唇を奪われた。