第10章 最強タッグ(?)
このままでは拉致があかない、そう思ったのか安室は「はぁ…」と溜息を零す。
そして今まで見つめていた愛香から目を離し、ベッドサイドに腰掛けている男に鋭い視線を向ける。
「おまえの目的はなんだ。
お前が沖矢昴と言う人間でない事は分かってるんだ。
愛香をどうするつもりだ」
いや、実の所まだ目の前にいる人間が沖矢昴ではない、と言う証拠は揃っていない。
だが、もうすぐーーーもうすぐだ。
そんなギラギラとした意志を込めた瞳で沖矢を睨みつける。
沖矢は愛香に向けていた視線をスッと安室の方に向けた。
と、言っても目が閉じているようなものなので、顔の向きや視線を感じなければ見ている所など分からないのだが。
「僕には貴方の言ってる意味が分かりませんね。
僕は正真正銘【沖矢昴】と言う人間ですし…目的もなにも大事な妹をどうこうする、なんて考えた事もありませんよ」
そう目を細めて静かに笑う。
その態度に眉根を顰める安室。
暫く沈黙が部屋に訪れた。
「はぁ…」
再び安室が溜息を零す。
愛香がいる場所で、しかも寝息をかいている場所でこれ以上の口論は無意味だと悟った。
口論した所で、目の前の男は絶対にボロを出さないであろう。
確固たる証拠を突きつけ、相手を屈服させなければ意味がない。
そしてーーーーー
そこまで考えて安室は一旦思考を止めた。
これ以上考えてしまうと、憎しみと怒りと後悔と…色々な感情をぶつけてしまいそうだったから。
もう1度彼女が寝ている方を見る。
やはり気持ち良さそうに寝息を立てている。
「今日の所は帰ります。
彼女を起こしたくはないですから」
そう言い、愛香の頬に1つキスを落とす。
チラリと沖矢を見るが反応はなかった。
そのまま彼を見る事なく自身の荷物を確認し、部屋を出てドアの前まで向かう。
無言のまま背後を沖矢が付いて来ていた。