第8章 盗まれたのは
「さてそろそろ貴方をお返しなければなりませんね」
近く一体にパトカーのサイレンの音が響いていた。
遠くの方にはヘリコプターの音も聞こえる。
彼との時間も終わりか…そう思うとなんだか名残惜しい気がした。
もう少し一緒に居たくて話しかけてみる。
「貴方は日本へ帰るの?」
「えぇ、目的は達成しましたし私がいる理由はありませんよ」
『そう…よね。
私も日本へ連れてってくれない?』
我ながら突拍子もない発言だ。
彼が目を見開き驚いているのが分かった。
けれど、決して嘘で言ったのではない。
自分の身が危険なのも分かっているけれど、生まれ育ったあの家より、日本の…彼が待つ家に帰りたい、そう思っている自分がいるのだ。
「私もこのまま貴方を連れ去ってしまいたい。
ですが…私の正体がバレる訳にもいかない。
私はまだやらなければならない事がありますのでね。
貴方が私の正体をバラすとは思いませんが、念には念を」
『貴方の正体…かぁ…。
…黒羽快斗…ではないの?』
「…っ!?」
何故彼の名前が出てきたのか自分でも分からないが、彼と怪盗キッドは確かに似ているような気はしていたのは事実だ。
それに…抱き締められた時の彼の匂いが同じだった。
まぁ、そんな事で決め付ける理由にはならないけれど。
「ははっ…」
『…??』
突然怪盗キッドが笑った。
そして彼はその帽子とモノクルを取り始めたのだ。
そして現れたのは…私が知る、あの黒羽快斗だった。
『えっ…快斗君…?』
彼は驚いた私の表情を見て、してやったぜ、とでも言わんばかりにニヤリと笑った。
その表情は確かに私が知っている黒羽快斗そのものであって。
恐る恐る彼にゆっくり手を伸ばす。
「ん?
あぁ、ほれほれ、俺様は本物だぞー。
触ってみ??」
その伸ばした手を取られ、そのまま彼の頬へと導かれる。
ゆっくりと彼の頬に指を滑らせ…そして横に思いっきり引っ張った。
「いへへへへへ…いはいっへっ(いててててて…痛いって)」
『ほ、本物だっ…』