第8章 盗まれたのは
『凄い…とても綺麗ね』
彼のグライダーの乗り心地は最高…とは行かなかったが、空から見る街並みはとても綺麗だった。
あぁ、夜景に感動し男に釣られる女の人の気持ちが分かった気がする、そんな事を思ってしまうまでに。
世の中の女性が憧れを持っているあの怪盗キッドと夜のグライダーでのお散歩…なんて私がこの宝石を身につけていたお陰で起きた誕生日の奇跡だ。
あのつまらなかったパーティーも良しとしよう。
暫く空中散歩をした後、ビルの屋上に降り立つ。
ドレスと言う薄着だった為夜風が身体を震わす。
「これは失礼…その格好では寒いでしょう。
私ので申し訳ないですが、ないよりはマシでしょうからお使い下さい」
そう言って彼は白のジャケットを私に掛けてくれた。
彼が今の今まで着ていたジャケットなので、温もりが残っていて彼を感じているようで少し顔が赤くなってしまった。
恥ずかしくなってしまい、上着を握り締めたまま俯く。
「おっと、当初の目的を忘れてしまう所でした。
レディ、その宝石を見せていただいても?」
『ぁ…ええ、どうぞ』
首から外し、彼に手渡す。
別に私の物でもないし、執着はない為すんなりと彼に渡した。
彼はその宝石を月に照らして見ている。
そして「ふぅ…」とひと息漏らすのが聞こえた。
「どうやらこれも私が探していた物ではなかったようです。
お返し致します」
そう言って後ろに回り先程着けていた首元に付けてくれた。
怪盗キッドは盗んでは返してを繰り返している。
やはり何かを探しているのだろうか…そうは思うが詮索はしない。
誰にだって事情があるもの。