第8章 盗まれたのは
その声を遠くに聞きながら、ホールの外に出ると高い場所に居るからなのか、強い風に身体がよろめく。
それをギュッと抱き締められながら、その腕の主を見つめる。
これからどうするんだ、そう言った目で訴えながら。
いや、実際彼に拐われた身なのだが、特に逃げたいとか、助けてなどと言う気持ちが一切無かった。
自身の誕生パーティーなのに退屈していたし、まさか自分があの有名な怪盗キッドに連れて行ってもらえるなんて、そんな機会何処を探してもないだろう。
なので、先程のどうするんだと訴えている目も期待や興味に満ち溢れていた目だった。
それに気付いたのか、彼はフッと笑う。
「どうやらお姫様はとても好奇心旺盛のようだ。
その綺麗な瞳がより一層輝いていますよ」
『貴方の方が月をバックに従えて綺麗だと思いますけど』
つい本音がポロリと出てしまった。
いつも思うのだ、彼を見る時はいつも月が背後に見えていて本当に輝いて見える。
白い衣服が月の光に照らされてとても綺麗なのだ。
つまり月を従えてカッコ良さ2割増しみたいな感じだ。
いや、元から十分カッコいいと思っているけどね。
私の発言に驚いたのか、モノクル越しに見える瞳が見開いていた。
だが、それも一瞬の事で、下から聞こえるザワザワとした声によって意識を逸らせた。
「さて、少し騒がしいですので…。
姫様、私めとご一緒に空中散歩は如何でしょうか?」
なんて魅力的なお誘いなんだ…!
まさか彼のグライダーにまで乗せてくれるのか…どうやら今日の怪盗キッドは太っ腹のようだ。
跪かれ差し出された手を取り、『勿論、ご一緒させて下さい』と言うと彼は満足そうに、「そうこなくては」とニヤリと笑うのであった。