第8章 盗まれたのは
「怪盗キッドだとっ!?」
「ほ、本物なのか!」
「だが何故ここに」
「きゃーっ、キッド様ぁーっ!!」
ザワザワと様々な声が聞こえる。
声は聞こえるが私の視線は彼に向いたままだった。
「またお会いしましたね、お嬢さん。
いや、この場合はお姫様の方が相応しいかも知れませんね」
そう言ってクスリと笑う彼。
怪盗キッド、本物だ。
彼は日本を拠点とする怪盗の筈だが、わざわざ何故ここに。
疑問が募るが、彼はここに居る、それが答えだろう。
「怪盗キッドっ!!
む、娘を離してくれ!娘は関係ないだろう!!」
彼から視線を外し、下を見るといつの間に数十人のSPだろうか、黒スーツを着たガタイの良い男達が両親を囲っていた。
日本の警察官を束にしても捕まえられないのだ、そんなに人を集めても恐らく捕らえられないのに、なんて思ってしまう程彼は有能なのだ。
「おや?蓮見さん、私は予告状にこう記しましたよ。
『今宵の輝ける主役を頂戴致します』と…」
怪盗キッドから予告状が届いていたなんて初耳だが、これだけ有名視されている宝石だ、狙わない怪盗はいないだろう。
さ、早くコレを持って行って私を解放してくれ…そう思った矢先とんでもない発言が耳に届いた。
「その予告状に従って、本日の主役、姫様ごと頂いていきましょう」
『えっ…』
「な、なんだと!?!?」
反論も何も出来ないまま、ガラスドームになっている天井の一部がパリンと割れる音がし、そのまま再び勢い良く上に登っていくような感覚に包まれる。
いや、実際彼の腕に抱かれたまま上へと登って行ったのだが、状況について行けないのである。
一呼吸遅れて、「つ、捕まえろー!娘を救出しろっ!!」と父の声が響く。