第8章 盗まれたのは
「僕は何か飲み物をお持ちしますね」
そう言って颯爽と消えて行った探さん。
それを見ていたご婦人達は我先にと探さんに猛アタックだ。
まぁ、人気だからね、仕方ないね。
私もこの目の前に並んでいる方々を捌かなければならないので、そっちに集中だ。
既に数組のお相手を両親としたが、話が長い長い。
誕生日の祝いから始まり、宝石の話やら事業の話、はたまたうちの息子を〜などなど様々だが、皆同じ様な事ばかりだ。
つ、疲れる…明日は恐らく頬筋は筋肉痛に違いない。
それにしても、探さんはまだ戻ってこない。
飲み物を…と言っていたがご婦人方のお相手で戻って来られないのだろう。
そう考えていたその時、会場が真っ暗闇に包まれる。
「な、何事だっ!!!」
父の慌てた声が響き、周りもなんだなんだとザワザワしていた。
父の側近である執事が懐中電灯片手に近くに来て、父に耳打ちする。
どうやら電気系統のトラブルで会場の電気が消えてしまったらしい。
復旧にはそこまで時間がかからないようで、今作業中なのでもうすぐ直るらしいが。
「皆様、お騒がせ致しました。
どうやら電気系統のトラブルで停電しており、後数分で復旧致しますのでその場を動きませんようお願い致します。
ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
父の迅速な対応で騒動は起きなかったが、まだザワザワとはしていた。
「愛香さん、大丈夫ですか」
グイッと引き寄せられ、耳元で囁かれた。
ビクッとしたが、声を聞く限りどうやら探さんだった。
『大丈夫です、突然暗くなって驚きましたが、すぐ復旧するみたいなので』
「ですが、危ないですので僕に捕まっていて下さいね」
まぁ、好意に甘えさせてもらって、電気が付くまで大人しくしておこう。
ありがとうございます、素直にお礼を言ってそのまま抱き締めてもらう。
て言うか、抱き締められてるって恥ずかしいなぁ。
早く電気直ってー…その願いが届いたのか、パッと会場が再び明かりに包まれた。