第8章 盗まれたのは
開かれた先に足を進めると、長い階段が下に続いており、その下にあるホールにはこれでもかと言うほど埋め尽くされた人達が居た。
うわぁ…ざっと見て300人超えはしていそうだ、なんて心に思っても顔には出さない。
今日は私とこの憎たらしい宝石のセットでの登場だ、嫌でも笑みを貼り付けなければ。
「凄い人ですね…。
この中の何人が貴方の美しさに見惚れているんでしょう。
まぁ、僕もその1人ですけどね」
そう言ってニコリとこちらに微笑みかけてくる探さん。
ありがとうございます、そう言ってこちらも微笑みかける。
探さんの好意か、はたまた唯のお世辞か分からないが、自身の強張っていた顔が少し和らいだ気がした。
「皆様、今夜の主役、娘の愛香と人魚の涙のお披露目でございます!!
エスコートしていただいている青年は、今巷で噂の白馬探さんです。
盛大な拍手をお願い致します」
父の言葉によって会場から割れんばかりの拍手が贈られる。
正直うるさいので、早く下に降りてこの音を止めて欲しい。
「愛香さん、鼓膜が破れる前に下に降りましょうか」
どうやら探さんも同じ事を考えていたようだ。
あれ、もしかして意外と探さんは毒舌なんだろうか←
いや、この際どっちでもいいか。
両親が待つ所へ、ゆっくりと階段を2人手を繋いで降りて行く。
降り注ぐ視線を無視してやっとのこと、この長い階段を降り終える。
降り終えた所でピタと拍手も鳴り止んだ。
心の中でひと息つく。
この高いヒールで降りるだけでも一苦労なのだ。
「それでは皆さま、ごゆるりとお楽しみ下さいませ」
母の一言でシンとしていた会場が活気に包まれる。
これからが、更に大変だ。
きっと挨拶やらこの宝石の鑑賞やら何やらで、沢山の人が訪れるであろう。
誕生日なのにこんな苦労をしなきゃいけないなんて、帰ってこなきゃ良かった、本当そう思う。