第8章 盗まれたのは
安室さんが目で訴えてくる、早く行って下さい、と。
私は軽く頷き彼女が居る反対側の方の路地の出口へと走った。
角を曲がり、ちらりと路地を覗き込むとどうやら追っては来ていないようだった。
彼女が走り去ったのを確認し、ベルモットが居る方へ行く。
無事に逃がす事ができて良かったが、正直ベルモットが来なければあのまま彼女を本当に何処かへ連れ去っていただろうなと、心の中で苦笑する。
「あら、子猫ちゃんが逃げてしまったわよ。
捕まえなくていいのかしら?」
…何か疑っているのだろうか。
そんな疑惑の目を向けられていた。
彼女の正体がバレている訳ではなさそうだが、感潜られては迷惑だ。
「特に情報を持っていた訳でもありませんでしたし、口を封じる必要もないですよ。
下手に地元警察に目をつけられても困りますしね」
「それもそうね、私も面倒事は遠慮したいもの。
通りに車停めてあるから行くわよ」
そのまま歩いて行った彼女の後ろを付いていく。
一度後ろを振り返り、彼女が無事である事を願いながら。
どうやら2人は行ってしまったようだ。
ふぅ…とひと息だけ気を抜く。
あぁ、また安室さんに助けられてしまった。
彼は…味方、と思っていいのだろうか…うーーーん…分からない…。
今考えても仕方ない事だが、やはり気になるものは気になるのだ。
仕事に復帰したら徹底的に調べよう。
それよりもまずは自分の身を守れるようにしなければ。
今まで相手して来た相手より数段も上の組織なのだ、今のままの私では誰かに迷惑をかけるし自身の命すら守れないのだ。
出来る事は限られているがやるしかない。
携帯を開き時間を確認する。
どうやら彼と居た時間が思ったより長かったのか、予定していた時刻より過ぎてしまっていた。
急いで通りでタクシーを拾い家へと戻るのであった。