第8章 盗まれたのは
『んぐっ…ふっぅ…』
叫ぶ為に勢いよく吸い込んだ空気を吐き出す事なく塞がれてしまった為、変な声が出てしまった。
塞がれた唇が一瞬離れ、息を吐き出すとそれを狙ったかのように開いた唇に再び噛み付かれるように塞がれ、口内に熱い舌が捩じ込まれる。
いつもの優しいキスではなく、まるで怒りをぶつけるように荒々しいキスだった。
そして唇が離れると、そのまま至近距離で睨まれる。
うわぁ、相変わらず綺麗な顔をして…とか考えてる場合ではなかった。
どうにかして脱出を…と考えながら辺りを見回す。
もう大きな声で叫ぶのは諦めた。
また塞がれるもん。
「まだ僕から逃げようとしているんですか。
そんな悪い子は…」
「この場で犯してあげましょうか」
『んっ…!!』
耳元でやたらと良い声で囁かれた。
ていうか、この場って!!いつからそんなにSに…!!
「さて、質問に答えてもらいましょうか。
まず、何故連絡をよこさなかった」
そう問いかけながらゆっくりと身体に手を這わせていく。
え、触りながら聞くとか拷問でしょうか、と言うか敬語なくなってます、怖いです。
ここは素直に答えるしか…。
『ひぅっ…あの日の夜に家に帰って寝ている間にこっちの知り合いに運ばれたんです…。
兄が私を心配してて、それで一旦日本から離れた方がいい、そう判断したんでしょう、きっと…。
その時、携帯や他の荷物も全部置いて私だけで渡米したので連絡出来なくて…すいません…』
ピタっと腰ら辺を這っていた手の動きが止まった。
そしてはぁあああ…と大きな溜息を吐いた安室さんの顔が私の右肩の上に乗っかる。
チラリと横目で彼の顔を見ると、彼もこちらに顔を向けて見ていた。
「心配したんです…貴方に何かあったかと。
僕もこちらへ来なければならなかったから、貴方に会いに行く事も出来ませんでした。
まぁ…まさかアメリカのこの地で会うとは思ってませんでしたが」