第8章 盗まれたのは
久し振りに歩く街並みにとても懐かしさを感じた。
そこまで何ヶ月も来ていないって訳ではないのだが、やはり日本とは違う感じの賑わいに心が弾む。
ゆっくりと数カ所買い物を楽しみ、買ったものは全て自宅に配達をしてもらった。
まぁ、普通はしてもらえないんだけど、うちには贔屓にしてもらっているから、と特別にね。
コーヒーショップで買ったクリームたっぷりのカフェオレを片手に次はどこに行こうかななんて考えながら歩いていると、少し先にキャップを被った知り合いを見つけてしまった。
『えっ…なんでここに…』
驚くのも当たり前なのだ。
だってここは日本ではなく、アメリカ。
視線の先に居たのは、日本にいる筈の安室透の姿だったのだ。
驚き過ぎてこの場から動けずにいると、視線に気付いたのか彼がこちらの方を見た。
そしてバッチリと視線が合うと、彼も驚いたのか目を見開いてこちらを見ていた。
そして怒ったような顔をしてこっちに猛スピードで歩いてくる。
いや、もはや歩くよりジョギング程度のスピードだ。
早い、ヤバい、逃げなきゃっ…。
そう思い踵を返し走り出す。
幸いお互いに結構距離があり、人の通りも多いので逃げきれそうだ。
どれくらい走ったのだろうか、後ろを確認をしなかったが、きっと彼は撒けただろうか…。
ビルの間にある小さな路地に駆け込み、息を整える。
だいぶ息が上がっている。
これでもFBIなので鍛えているのだが、気持ちの焦りか動揺なのか、いつもより息が上がるのが早いと感じた。
辺りをキョロキョロと見渡して誰も居ないことを確認し、ふぅとひとつ息を吐き出す。
『怒って…たな…』
何故ここにいるのか、恐らく彼の、バーボンの方の仕事で来ていたのだろう。
それも気になるし、他に組織の奴らが来ていないだろうか、とか不安になるが…。
それよりも彼に連絡を取れなかった事に対しての罪悪感が心を支配していた。