第8章 盗まれたのは
ふぅーーと軽く息を吐き出す。
まさか自分がこんなスパイみたいな役回りを任されるとは。
携帯をテーブルに置き、胸ポケットからライターと愛用している煙草を取り出し火を付ける。
そのまま窓辺にまで歩き、窓を開けると新鮮な風が入り煙が外に逃げていくのが分かった。
「まったく…うちのお姫様は愛され過ぎんのも問題だよな」
煙草を消し、ドアへと向かう途中、ふと後ろを振り向く。
窓から見える月。
明日の彼女の誕生日は満月だ。
彼女はあの月のように静かに光り輝き、人を魅了していく。
恐らく明日来る客人達の視線も彼女が掻っ攫って行くであろう。
そう思うと気苦労が絶えないな…なんて思い、まだ残っている仕事をする為部屋から出て行ったのであった。
「…さま…愛香様…」
誰かの声がし、意識が覚醒する。
瞼を開け上体を起こすとそこにはいつもの早乙女ではなくメイドがカーテンを開けていた。
『おはよう、早乙女は?』
「おはようございます、愛香様。
早乙女様は今夜のご準備で出払っております」
『そう…。
今夜の予定以外はフリーなのよね?』
「はい、愛香様のご準備もありますので、15時頃までに戻っていただけたら大丈夫でございます」
『分かったわ、なら出かける準備を』
「かしこまりました」
どうやら早乙女は今日は忙しいみたいだ。
夜のパーティまでは何も予定がないみたいなので、今日は1人でショッピングでもしようかなと考えた。
メイドに服やらメイクやら髪型やらをやってもらい、繁華街まで車で移動する。
もちろん髪の毛は下ろしたまま巻いてもらっただけにした。
どうやら両親も既に準備やら何やらで家には居なかったし、探さんも朝の乗馬散歩に出掛けたようだ。
え、本当に白馬の王子様目指してんの?とか思ったが、口には出さない、絶対。
と、言う事で誰も居なかったので食事もお腹が空いた時に適当に済ませようと思い、すぐに車を出してもらったのだ。