【安室透】奇妙な客人がやって来るのは、この霊感のせい?
第1章 奇妙な依頼人【出会い】
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『最期に彼女の姿を見に行ければいいんだが……地縛霊は死んだ場所から離れることが出来ないんだ……』
そこで、と男性は続けて私に一通の手紙を手渡した。裏表真っ白のシンプルな手紙だ。男性は私にこの手紙を婚約者に渡して欲しいと頼んできたのだ。
『急にこんな頼みを受けて困るかもしれないが、今頼れるのは君しかいないんだ』
きっとこの手紙には彼女に対する想いが込められているのだろう。彼の切羽詰まった表情から事の重大さを実感した私は、その手紙を持って教えて貰った婚約者のいるその家に向かった。
しかし、インターフォンを鳴らしても返事が無い上に、家の電気は点いていないのに鍵が空いていたのだ。
不審に思った私は家に入ると、そこには首吊り自殺を図ろうとしている男性の幽霊の婚約者が椅子から飛び降りようとしている直前だった。
それを見た私は慌てて彼女の身体にしがみついて、首吊り縄から遠ざけた。
彼女は泣いていた。
「私も早く彼の元にいかせて。」
「彼無しじゃ生きていけないの。」
と泣き叫んでいたのだ。
その姿に呆然としている私を押し退けて、すぐ様首吊り縄に近づこうとする彼女を止めるために、男性から託された手紙を彼女に渡した。
その手紙を読んだ彼女は、彼からの手紙を胸に強く抱き締めた。
大粒の雫が溢れ、彼女の頬を伝っていく様子を私は静かに見守っていた。