【安室透】奇妙な客人がやって来るのは、この霊感のせい?
第1章 奇妙な依頼人【出会い】
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『多分仕事で上手くいかないことがあったんじゃないのかな……その日を境にここに通うようになったんだ』
「このヒヤシンスを持って?」
『いや、初めは違う花を持ってきてたよ。よく見るだろ?墓で供えられている白い花。あれと同じやつだよ』
「じゃあどうしてヒヤシンスに…?」
『通い続けている内に、アイツは俺の自殺を止められなかった自分を責めるようになったんだ。更には、アイツは止められなかった自分を俺が恨んでいるだろうって思い始めるようになったんだよ』
「それで安室さんは、謝罪の意味が込められている花言葉のヒヤシンスを選んだってことですか?」
『俺の想像はね……真意は分からないけど、アイツのことだから……』
安室さんはヒロミツさんの自殺を止められなかった自分は恨まれても当然だと自分を責め続けたのだ。
そして少しでも償いが出来るようにとヒロミツさんの自殺現場にこのメッセージを送っていたに違いない。
もしかすると最近の安室さんの疲れというのは、ヒロミツさんに対する悩みのストレスによる疲労が積み重なったものではないのだろうか。物理ではなく精神的な疲れが。それなら先日の安室さんのあの表情にも納得がいく。
『栞さん』
呼ばれた声に反応して振り返ると、ヒロミツさんがヒヤシンスの花を掲げて立っていた。
『俺の自殺の原因も俺のミスが発端だ。アイツももちろん、誰のせいでもない……誰も悪くないんだ。だから、アイツに伝えて欲しいんだ』
ヒロミツさんの顔は、幽霊特有の相変わらずの顔色の悪さだが、彼の瞳からは強い意思を感じる。
「恐らく……私の口から言っても、伝えるどころか返って安室さんに警戒される原因になると思います」
そして私はピンッと人差し指を立てて続けた。ヒロミツさんは瞬きを繰り返しながら私の人差し指の先端を見詰めている。
「だから、もっと説得力のあるやり方で伝えてみましょう」
『……説得力のあるやり方?』
「もちろん、効果が必ずあるとは限りません。でも私の口から直接言うよりはマシなはずですから……」
巧妙な話術を持っている訳では無いが、試してみる価値のあるアイディアは考えている。
「“目には目を、花には花を”です」