【安室透】奇妙な客人がやって来るのは、この霊感のせい?
第1章 奇妙な依頼人【出会い】
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私には、普通の人には見えないような謎の“物体”が見える。
最初は火の玉の正体のようにプラズマか何かが原因で見える錯覚かと思っていたが、その“物体”が幽霊だということに気がついたのは、数少ない休日の外出先でのことだった。
数時間前に交通事故が起こったと風の噂で聞いた交差点付近に男性が蹲っているのを目撃してしまった。
気になった私は男性の顔をチラりと覗いて見ると、苦しそうに顔を顰めているように見えた。
どうかしましたか?大丈夫ですか?──そう尋ねられれば良いのだが、なかなか切り出せなかった。男性には申し訳ないが、極道で言うところの親分のような印象を、彼の顔を見てそう思ってしまったからだ。
いつ切り出すべきか機会を伺っていると、あることに気がついた。通行人が誰一人として男性に見向きもしないのだ。更に言えば傍にいる警察官さえも男性がその場に居ないかのように振舞っている。
違和感はあるが、いつまでも躊躇していたら彼の身が危うくなるかもしれない──決意した私は勇気を出して男性に声を掛けた。
「あの、顔色悪いですが……どこか具合でも悪いのでしょうか……?」
すると男性は、私が“彼の姿を見えていること”に動揺しつつも素直に質問に答えてくれた。
男性は数時間前に交通事故で死んでしまい地縛霊となったらしい。ただ、残してしまった婚約者の女性のことが心配で成仏が出来ないのだと私に打ち明けた。生気がないのはそのせいだろう。
地縛霊だと明かされた時は驚いたが、疑いはしなかった。幽霊だとは気が付かなかったが、幼い頃からそのような類には何度か遭遇している。
ただ、男性のように人の形を保っている訳では無い。肉の塊が血を這いずっていたり、火の玉のような気体の状態のものが浮遊していることもあった。
よくホラーなどで怨みの力によって形状が変化するように聞くが、その説が近いかもしれない。