【安室透】奇妙な客人がやって来るのは、この霊感のせい?
第1章 奇妙な依頼人【出会い】
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だが、梓さんに任せてくれと言ったものの、土日祝日に入ってからその行動に移すことが難しくなった。
本の整理や受け付けなどの仕事だけならば、まだ余裕はあったが『メール・電話で本の査定、買い取り』を初めて以来予想以上に仕事量が増えた。
最近ネット通販が流行り始めたのを知って、流行りの波に乗ろうと油断していた。
そして今日も朝早くからメールで『本の査定』の依頼が届いた。予定の時間も届いた時間から考えれば余裕は無い。
早めに目的の場所へと向かうことにしたが、到着したのは廃墟や廃ビルが建ち並ぶ人気のない場所──こんなところに人が住んでいるとは到底思えない。いつ犯罪が目の前で繰り広げられたとしても可笑しくないとさえ言える。
しかし、位置情報アプリで調べてもメールに書かれた住所は目の前の廃ビルを示している。
ホームレスがそこに住んでいるのかと疑いはしたが、どれだけ人を呼んでも返事は返ってこなかった。
もう一度メールで依頼相手に住所の確認をしてもらおうかと考えていると、突然後方で車が走る音が聞こえてきた。
依頼相手の車と思ったが、こんな人気のない場所に私を呼び出してまで本の査定をさせようとする相手を考えると思わず身が引いてしまう。念のために建物の影に隠れることにした。
するとやって来たのは一台の白いスポーツカーだった。
私の隠れている場所の手前で止まり、そして運転席から出てきた人物を見て、私はギョッとした。
目立つ金髪は変わらず褐色の肌に整った顔の持ち主──安室透だった。
彼の姿を見た私は、すぐ様その場から出て安室さんに話し掛けようとしたが、それをしなかったのは安室さんの手に持っていた紫色の花束が見えたからだ。
何の花かまでは見えなかったが、それを持って安室さんは廃ビルの中へと入って行ってしまった。どうして花束を持っているのだろうか。
(誰かに贈るため?いや、それとも……)
頭の中は依頼のことよりも安室さんの行動についてで考えがいっぱいだった。
依頼はメールが届くのを待ってからでも大丈夫だろう──決心した私は安室さんの後を追うために廃ビルの中へと入って行った。