第1章 春
そんな言葉は出ず、や、やっぱりなんでもない!!と言葉を濁した。
『っあ!長く引き留めちゃってゴメンね』
春の季節は日が沈むのが早い。すでに外は真っ暗になっている。
「ん、いや、いいんだ。」
惜しむように夢翔ちゃんの体を放す。
『じゃぁ、また明日ね。出久くん』
そうニコッと笑った彼女。やっぱりこの笑顔に僕は弱い。
「うん。またあした。」
夢翔ちゃんはドアから身を出してエレベーターに乗るまで見送ってくれた。
あぁ。こんな気持ちを何というのかは、想像できている。
初めて。
初めてだ。
こんなに浮き足立つ気持ちも
幸せと実感できる瞬間も。
『出久くー-ーん!!』
マンションを見上げると夢翔ちゃんが手を振っていた。
『気をつけてかえってねー!』
そう手を振る彼女に、笑って手だけを振り替えした。
好きだ。
どうしようもなく、彼女が好きだ。
あふれ出てくる感情をしまい込み、家に向かった。