第1章 春
『私の家、ここなんだ』
彼女が見上げたマンション。
「小日向さん、マンションなんだね。雄英からも近いしいいなぁ。」
『私一人暮らししてるからさ』
そう言って笑った彼女にドキリと胸がざわついた。
「一人暮らし?!」
『うん!一人。だからいつでも遊びに来てもいいよ』
そんなこと言われたら、毎日だって来たくなる。せっかくラフに、軽やかになんて思っていたのに。
「じゃ、じゃあ、今から行っちゃおうかな~なんて」
と頭をかいた僕に、驚く素振りも見せず『ん?いいよ』と返事が返ってきた。
あ~僕って男としてみられてないんだなぁ
と思って少し悲しくなった。
『嬉しいなぁ。私ここに暮らしてまだ1週間なんだけど毎日さみしかったからさ』
・・・男としてみられてないとか、今はどうでもいいか。
彼女が喜んでくれることをしたい。
『あ、じゃぁついでにご飯も食べていく?』
「え!!!そんな、気を遣わなくてもいいよ!」
『気なんて遣ってないよ。ほら、一緒にお家でご飯食べたらさ、一緒に暮らしてるみたいな感じがして楽しいじゃない?』
あ~。小日向さんは悪気があるわけじゃない。
ただ、友だちとして僕を誘おうとしてくれているだけ、なんだけど
嬉しい。
『じゃぁ行こう!』
マンションのエレベーターに乗って5階のボタンを押した小日向さん。
マンションを見たときにも思ったけど、いいところに住んでいるんだな。お金持ち?とか?
と考えていた僕の思考はばれたようで
『私はお金持ちじゃないよ』
と微笑まれた。
『ここのアパートね、私のお母さんの姉が経営してて。だから夢翔ちゃんならタダでいいよ!!!なんて言われたんだ。』
それにしてはすごすぎる。よっぽど好かれているんだな。
チン
とベルが鳴り、5階についた。