第1章 春
「あ~悪い。泣かせるつもりはなかったんだが」
『私、除籍処分されると思ってここまできたんです。』
「ちょっと待て。ここで泣かれると困る。」
そう言って相澤先生は今は誰も使っていない会議室に私を通してくれた。
「んで?なんだ」
テスト中の冷たい視線ではなく、暖かいような柔らかいような眼差しを向けてくれる相澤先生。
『職員室には入れなかったのは、除籍させられるって思ってしまっていて
まさか、こんなに温かい言葉をもらえると思っていなくて、驚いて涙がでてしまいました。すみません。』
うつむきながら話すと、相澤先生がまっすぐ目を見ていってくれた。
「さっきも言ったが、俺の個性は個性把握テストに向いていない。」
過去、相澤先生が雄英生徒だった頃の話
私と同じで、個性把握テストに向いていなかった先生は、このテストでずいぶん悩まされたらしい。
「実力でどうもならないときだってある。それでもめげずに前を向け。
諦めたら、お前はヒーローになれなくなる。
さっき緑谷をかばって言っていたな。彼の目を見てヒーローになってほしいと思った。と。
そう言って説得してくるお前を見て俺もお前にヒーローになってほしいと思ったよ。」
なんだこの先生。私を泣かせにきているとしか思えない。
この先生ってこんなにしゃべるのかよ。
「そういや、小日向はなんで爆発の個性を使った?」
先ほどまで流れていた涙が、ピタリ、と止まった。
『え・・・そ・・それは』
どうしよう・・・先生には個性のことなんて知られているし・・・
「まぁ、どういう形でかは知らないが、DNAを取り込んだってことだよな。」
『ッブッ!!!いや・・・』
「お前の体にDNAが2つ取り入れられたら、どうなる」
ずいっと相澤先生が距離を詰めてくる。
『えっ・・それは』
「上書きされるか・・・それとも2つ同時に使えるか」
すらりロ伸びた相澤先生の手が私の顎を引っかける。
「試してみるか」
顔が近づいてくることが耐えられず、目をつむった。
恥ずかしい。どうしたらいい。なんて言葉しか浮かばず、打開策は出てきてくれなかった。