第9章 楽しい楽しいお酒の時間
赤井「泣くな。」
沖矢さんの声が変わったかと思うと、いつの間にか隣にいた黒髪の赤井秀一の顔がゼロ距離にあった。
唇には柔らかい感触。
キスをされていると理解し、抵抗をするが赤井さんは右手で私の両手を拘束し左手で私の後頭部を支えていた。
「っ……んぁ。」
長い口付けに息が出来ずに口を開けると、ヌルりとなまあたたかい舌が口腔内に侵入し、私の舌を絡めとる。
「やっ…ン。」
私の口腔内を貪るように舌を動かされ、酸欠も重なって意識が朦朧とする。時折聞こえる卑猥な水音が羞恥心を駆り立てる。
このままでは流されてしまうと思い、赤安さんの舌を噛んだ。
赤井「ッー……。」
赤井さんは私の拘束を解いて距離をとった。
その瞬間、私は荷物をもって飛び出すように家を出た。
「はぁ……はぁ……。」
後ろを振り返ることなくひたすら走った。
なんなのだ。赤井秀一といい降谷零といい。
突然抱きしめてくるわキスをしてくるわ……わけがわからない。
ハニトラをしようとしていたにしてはあまりにも衝動的すぎるし、好意があるなら告白の1つや2つあるものだ。
きっと私から情報を得たいが故に出た行動というならばまだ納得がいく。
「わっ?!」
走りながら短い間に起こった事の顛末を考えていると足が絡まった。
転ける!そう思い目を瞑ったが痛みは来ない。むしろ柔らかい肌のような感触。
ジン「どんくせぇな」
「ジンにぃ……。」
どうやらジンにぃが転けそうになったところを受け止めてくれたようだ。
ジンにぃの温もり……そして煙草の匂い。
それらは私を安心させるには十分すぎて私はまた泣いてしまった。
ジンにぃは突然泣き出した私を見て戸惑っている様子だったけど、今はまだジンにぃを感じていたくて離れなかった。
ふわりと頭を撫でられる感触がすれば不思議と意識は遠のいていった。