第7章 気づかない2人
降谷零side
霧島「……何がしたいの。どうせ調べたって言っても私の名前や生年月日程度でしょ。」
「えぇ。でもなぜわかるんですかねぇ?僕は一言も貴方の名前や生年月日しかわからないとは言っていません。それなのに貴方はそう言った。つまり、貴方がそれ以外の情報が漏れないように働きかけているということになりますね。」
そう言い放つと彼女は酷く冷たい目をして俺に銃口を向けてきた。拳銃を握る手は震えていた。きっと人を殺したことはないのだろう。
霧島「これ以上私のことは詮索しないでください。命が欲しいならね。それから、貴方の情報は誰にも話さないことは約束しましょう。そのかわり、貴方も私のことを知ったとしても誰にも漏らさないことを約束してください。そうでなければ死んでもらうしかありませんから。」
彼女はそう言って客間の扉を開ける。
霧島「今日はもう帰ってください。」
その時彼女の瞳は紫よりも深い闇の色のように感じ、今すぐにでも壊れそうな程に彼女は弱く見えた。
言葉や感情よりも先に行動していた。
何故だかはわからない。
しかし、抱きしめなければならないと感じた。
どこかで自分を重ねるかのように、優しく彼女を抱きしめた。
「何を抱えているかは知らないが、貴方は黒に染まった訳では無いと思っている。」
いや……この言葉は間違っている。
黒に染っていると信じたくないだけだ。
なぜそう思ってしまったのか……このわからない感情に今は為す術もない。
俺は抵抗する霧島を離さず抱きしめ続けた。
霧島「離してくださいっ!貴方に私の何が分かるのですか!理解したフリなんて反吐が出る。」
これは本当の抵抗ではない。
もし、本当に嫌なら今持っている拳銃で俺を殺せる。なのにそれをしないということは彼女は混乱しているのだろう。
霧島「本当に貴方は何がしたいんですか。私は貴方の敵ですよ?!」
俺の敵。そうだ。霧島は黒ずくめの組織に手をかしている敵だ。なのに……なぜ彼女に「敵」と言われると胸が痛む。
これで公安がよく務まるな。
俺は彼女から離れると家の外に向う。
「また、来ますね。」
玄関先で声をかけるも彼女は俯いて黙ったままだった。
玄関の扉を閉め、月を眺めながら溜息を漏らした。