第1章 ヘリオトロープ 《切原赤也 R18》
当のはとろとろの意識をなんとか保っているような状態だった。教室を見渡すと運良くウェットティッシュの容器が目に入り、何枚か拝借しての後始末を済ませる。
「、ここで少し待ってられるか?」
コクリと首を縦に振るの頭を撫でてやる。
「すぐ戻ってくるからな、ジッとしてろよ!」
***
暫くして意識もはっきりしてくると、なんて恥ずかしい姿を赤也くんに見せてしまったのだろう…とは羞恥で頭がおかしくなりそうだった。
いやらしい子だと思われただろうか…嫌われていたらどうしよう、まさか私置いて行かれちゃった?と血の気さえ引く始末である。
教壇の下でおろおろしていると、カラカラっと控え目に扉が開く音がして、赤也くんが戻ってきた!と顔をひょこっと出した。
「赤也くん…!」
しかし、そこに立っていたのは愛しの赤也くんではなかった。
まず目に飛び込んできたのは、黄色地に黒のラインの入ったウェア。
立海テニス部のユニフォームだ。
男の人なのに整った顔立ちの優しそうな人。
だけど、圧倒的存在感で威圧感すら感じられる。
彼の肩に掛けられたジャージがふわりと揺れた。
「ふふ、かくれんぼでもしていたのかい?」
「え、あ、あの…」
キレイな微笑みをたたえた少年は、目を丸くしたまま固まってしまったを教壇の中から助け起こした。
「思っていたよりずっと可愛らしいお嬢さんだね。赤也も隅に置けないな」
「あ、え、赤也くんのお知り合いの方、ですか?」
少年が赤也の名前を口にしたので、途端にの警戒心が解けた。
「あぁ、挨拶がまだだったね、俺は3年の幸村。ご覧の通り、赤也と同じテニス部さ」
「わ、あ、あの、私、と申します。赤也くんにはいつもお世話になってます」
何度か赤也くんの口から聞いた名前。
幸村さん、確か部長さんだったと記憶している。
「そんなにかしこまらないで、俺はただ忠告に来ただけだから」
「忠告…?」
「そう、赤也はうちの大事な主力だけど、メンタル面でまだ不安定な所があるからね。貴女の存在が良くも悪くも影響しそうな気がして」
キレイな笑顔のまま、幸村は続けた。
「俺からの忠告はただ一つ、赤也を裏切らないこと、お互いの為にね」