第11章 板挟み
部屋の扉を開け、わたしは勢いよく中也さんをベッドに転がした。うう、とか何とか唸っていたが、運んだだけ有難いと思って欲しいものだ。
さて部屋に戻らなきゃ、とベッドに背を向けた途端、ぐいっと体を引き寄せられた。
「きゃ!?」
そのままぐるりと体を回転させられ、中也さんと向かい合わせの状態になる。逃げようとしても腰と背中、それに足までがっつりホールドされていて動けない。
ちらりと彼の顔を覗き見ると、にへらと満足そうな笑みを浮かべていた。何やらもにょもにょと呟いている。
「幸せそうな顔しちゃって……」
ふ、と中也さんの香りがした。いい匂い、落ち着く匂い。だけど何かが違った。
『泉さん』
太宰さんの声が耳に響いた。
『やぁ泉さん! 今日も絶好の入水日和だね!』
『お一人でどうぞ〜』
『おや、知らないのかい? 心中は一人では出来ないのだよ?』
『知りませんよそんなの』
『つれないなぁ』
嗚呼、駄目だ。他人に大切にされればされる程彼を思い出す、会いたくなる。
でも、誘いを蹴って此方側に来たのは自分の判断だ。それを悔やむ権利はわたしには無い。
「……侮るんじゃねェぞ……泉……」
「!?」
「俺に勝つなんざ百万年早ェよ……」
どうやら寝言らしい。此処から逃げようとしたのがバレたのかと思った。するとその後直ぐにまた新しい事を言い出した。
「誰がチビだ青鯖……」
今度は太宰さんが出て来ているらしい。何ともタイムリーな。
「一日限りの……双黒……」
戦ってる夢か? この人本当に太宰さんの事好きだよなぁ。本人に言ったら殺されるんだろうけど。
「俺に命令すんな……太宰よォ……」
「……くす。お互い楽しそうで何よりじゃ無いですか。わたしなんて嫌われちゃったし」
ふぅ、と息を吐いて中也さんの背中をぽんぽんと叩く。するとほんの少し拘束が緩み、わたしはその隙にするりと抜け出した。
ずっと抱き締められていた所為で体が少し痛い。寝惚けていたからか、どうやら力任せにされたらしい。パキパキ、と肩を鳴らしていると部屋の扉がノックされた。
「誰?」
わたしが声を掛けると、直ぐに扉ががちゃりと開いた。