第11章 板挟み
乾杯の合図をした途端、中也さんはぐびぐびとグラスの中身を飲み干した。
「っはぁー! 美味!」
「余り早く飲むと酔いますよ」
「俺は酒強い方だぞ」
ム、と中也さんが眉根を寄せる。わたしは訝しく思いながらちびちびとワインを飲んだ。
「お酒強くても酔いますよ」
「俺は酔わねぇよ」
「……疑わしいです」
「顔に出ないからかもな。呂律も変わらねェし」
「それ酔ってるじゃないですか」
もう、と溜息を吐くと、中也さんはくるりとわたしの部屋を見渡した。
「しっかし、手前の部屋は見事に女の部屋だな」
「可愛いですよね、特にぬいぐるみとか」
「お、ぬいぐるみあんのか。おら、腹つつかせろや」
云いつつソファの上に置いてあったくまのお腹をつつき出した。
「ちょ! 虐めないで下さいよ!」
「何だよー虐めてねェっつの」
ぶすーっとむくれた顔で中也さんはくまを抱え込んだ。
「もふもふ……いいな……」
「良いですよね、柔らかくて。昔はよく抱きしめて寝てましたよ」
そう答えてみたが、返事がない。見ると、中也さんはそのまま寝落ちてしまっていた。
「もう……。だから早く飲み過ぎないでって言ったのに……」
大きく溜息を吐きながらわたしは毛布を引っ張り出した。ソファで寝こけている彼に其れをかけようとした途端、スクッと中也さんが勢いよく立ち上がった。
「ひゃ? お、起きました?」
声を掛けてみるも返事は無い。よく見ると、目は瞑ったままの状態だった。どうやら寝たまま動いているらしい。
彼はそのまま部屋を出て行こうとした。
「ちょ! 待って中也さん!」
彼は部屋を出た後、ふらふらと廊下を進み、終いには壁に激突していた。慌てて駆け寄り壁から引き離す。
「危ないから! 怪我するから部屋に戻りましょう? ね?」
そう云うと、中也さんは少し落ち着いたように動かなくなった。取り敢えずどうしよう、寝落ちてるなら中也さんの部屋が一番良いだろうか。わたしはそう考え、彼の腕を自分の肩に回した。
「……重い!」
わたしと同じ身長なのに、筋肉があるからか、多分わたしよりも重い。わたしは四苦八苦しながら中也さんを彼の部屋のベッドに転がした。