第11章 板挟み
「失礼します! 中原幹部は……」
入って来たのは黒髪に黒スーツを着た青年。どうやらこのマフィアの下っ端要員の様だった。
「中也さんなら寝てますよ。何か?」
「寝てるなら貴女で結構です、少し来て頂けますか?」
「待って下さい、先ず状況説明をして? 何か事件があったんですね?」
落ち着いた声音を装ってそう問うと、末端さんは焦ったように云った。
「実は……尾崎幹部が探偵社に連れ去られて……!」
「!?」
「一刻も早く作戦会議をしたいと首領が」
「……判った、少し待ってくれる?」
云いつつわたしはベッドで寝ている中也さんの頭をはたいた。
「んがっ!?」
「中也さん起きて。緊急事態ですよ」
「緊急事態ィ? 何かあったのか」
「紅葉さんが探偵社に連れ去られたらしいんです。作戦会議をすると首領からの命令が」
「姐さんに限ってそれは無い……っと云いてェ所だが、どうやら本当のようだな」
すぐ行く。中也さんは服のシワを叩いて伸ばし、お気に入りの帽子を被った。「あ」部屋を出る直前、中也さんが声を上げてこちらをくるりと振り向いた。
「泉、手前は休んでろ」
「何でですか」
ムッと思わず喧嘩口調になってしまう。理由もなく外されたらわたしの存在意義が無いではないか。そんなわたしの気持ちを読んだのか、中也さんが苦笑した。
「手前は怪我してンだろ。結果は明日の朝、直ぐに伝えてやるから」
「この位の傷ならわたしは平気です!」
「此奴頼むぞ」
中也さんはわたしの反論も聞き入れず、末端さんにそう云い残して部屋を出て行った。後に残ったのは、ぶんむくれたわたしと苦笑する末端さんの二人だけ。
「……という事ですので。お部屋に戻りましょうか、泉さん」
むぅっと頬を膨らませているわたしを見て、末端さんは困ったように溜息を吐いた。
「そんな顔をしないで下さい」
「……この程度の切り傷じゃ平気なのに。中也さんも首領も過保護過ぎです」
「貴女は厄介な人に惚れられやすいんですね」
「どうだか」
そんな話をしている内にわたしの部屋の前に着いた。かちゃりとわたしが扉を開けると、自然と末端さんも入って来た。パタンと扉が閉まる。
「……でも、残念だなぁ」
「え?」
「折角助けに来たのに、それじゃ助けに来た理由が無くなっちゃいますよ」
「え? どういう──」