第18章 徒然なるままに
「泣かせる訳無いじゃないか。泉はもう私にメロメロなんだから」
「ンな事は知ってる。泉を幸せにしろって事だよ莫迦」
「莫迦って中也には云われたくないなァ」
「もっと云ってやろうか青鯖」
「五月蝿いなぁ帽子置き」
まーた始まった。敦くんの呆れ声が聞こえた。わたしはくすりと微笑む。
わたしはそっと抜け出し、部屋の片隅に寄った。社員もマフィアも、それぞれ賑やかに、敵味方関係なく楽しんでいる。そんな幸せな絵を見て、わたしは柔く微笑んだ。
「何してるんだい?」
何時の間にか太宰さんがわたしの隣に佇んだ。わたしは彼の方を見ずに答えた。
「ずっと皆と居られたらいいなぁって思って」
「私とは居てくれないのかい?」
「だって結婚したもの。一緒に居ない訳が無いじゃないですか」
そう云って笑うと、太宰さんもふっと笑った。
「そうかい。じゃあ、結婚した事だし、私の事を『太宰さん』と呼ぶのは止めようか?」
「じゃあどう呼びましょうか、『治さん』?」
悪戯っぽく笑ってそう云うと、太宰さんは一瞬で顔を赤くした。ずるずる、とその場にしゃがみ込んで何やらぶつぶつと文句を言っている。
「狡い、狡いよ泉。不意打ちは狡い」
「与謝野さーん、乱歩さーん。治さん照れてまーす」
「えっ」
「凄くレア! 写真なら今の内です」
「泉、私を売る心算かい?」
「その方が楽しいですし」
声を掛ければ、珍しいもの見たさに会場内のほぼ全員が集まる。
「へぇ、太宰が照れてるって?」
「あの青鯖、照れる事あんのか……」
「それが有るんですよ中也さん。珍しいけど」
「何をしたんだ小娘」
「下の名前で呼んだだけです〜」
確信犯ですよね、とぼそっと云った潤一郎くんに満面の笑みを向ける。与謝野さんと中也さんは楽しそうに携帯のカメラで何枚も写真に収めていた。
わたしはまたくすりと微笑んだ。
──此処まで来るのに長かった様な、短かった様な。これからも、わたしは探偵社の皆と、治さんと一緒に、沢山の事件と不可思議な日常に囲まれた世界を歩むのでしょう。
徒然なるままに、日常を書きためて。さぁ、明日はどんな日常が待っているかな。
──これは、大好きな人と過ごす、楽しくて、でもちょっぴり苦い日常のお話。
── 終 ──