第10章 黒山羊さんからのお手紙
言われた通りに進むと、『如月泉』と書かれた札がかかった部屋が有った。此処か。わたしはそっと扉を開けた。
「……うっわぁ……」
思わず声を上げてしまう位には凄い部屋だった。家具自体は白を基調としたシンプルな物だが、如何せん小物が凄い。カーテンやクッション、布団や枕は全てパステルカラーで統一されており、枕元やソファには可愛らしいぬいぐるみが大量に置かれていた。
「可愛い……。うさぎとねことくまに……あ、ペンギンもいる」
ふわふわモコモコのぬいぐるみだらけ。ソファの向かいに据えられたテーブルにもパステルカラーのクロスが掛けられており、その上に封筒が置いてあった。
「手紙? 誰から……」
封はされておらず、わたしは不思議に思いながら中から便箋を取り出した。
『泉くんへ
この部屋は気に入ってくれたかな? 因みに私の趣味ではないぞ。今度エリスちゃんと私と一緒にティータイムでも如何かな? お返事を待っているよ。
首領より』
端正な文字で綴られたそれは首領からのお手紙だった。何故手紙。そんな事を思ったが、折角貰った手紙なので早速返事を書く。
執務机の上に置いてあった万年筆とメモを取り、サラサラと書き出した。
「……これで善いかな」
出来上がった手紙を読み直す。うん、多分失礼は無い筈。
多分首領は部屋に居るだろう。直接会うのに手紙を渡すというのは少し変だろうか。でも手紙を貰ったら手紙で返事を返すのはわたしの変な拘りだ。
「よしっ」
紅葉さんには休んでいろと言われたが、返事は早めにせねばなるまい。わたしは部屋を出て首領の所へ向かった。