第10章 黒山羊さんからのお手紙
コンコン、と扉を軽くノックした。
「誰かね?」
「首領、如月です。入っても宜しいでしょうか」
「善いよ、入りなさい」
首領の許可が降りてから扉をそっと開ける。そこには相変わらず厳しい雰囲気の首領と可愛らしい少女が居た。
「あ! 貴方が泉ね!」
少女はエリスと名乗った。ふわふわとした長い金髪の少女で、何とも可愛らしい。
「泉くん、エリスちゃん可愛いだろう?」
声をかけられ首領の方を見ると、目尻を下げて愛おしい物を見る目をしていた。娘に向けるような……いや、どちらかと言うと恋人か? そんな相手に向けるような目だった。
「リンタロウ、目が気持ち悪いわ」
「そんな事言うなよエリスちゃん!」
エリスちゃんは意外と毒舌らしい。首領がこんなに活き活きしているなんて少し──否、かなり意外だったが。
仲良しなんだなぁ、と思いながら苦笑いを浮かべていると、「そうだ、私に何か用かね?」と首領がわたしに視線を戻した。そうだ、手紙を渡さなきゃ。
「部屋にあった手紙のお返事を書いたんですけど……直接お会い出来ましたし、今この場で伝えますね?」
「おや、手紙を書いたのか。返事は直接聞くとして、その手紙もくれるかい?」
「え、でも……」
「で? 返事は何と?」
首領はいつの間にかわたしの手紙を手中に収めていた。何と早い。
「ティータイム、ぜひご一緒したいです、と」
そう云うと、首領とエリスちゃんは満足気に頷いた。
「で、私は君に仕事を与えようと思ったのだが……君怪我してるのかい?」
「え? あ……」
太宰くんのように包帯だらけじゃないか。首領にそう言われ、わたしの胸は少しざわついた。折角振り切る為に此処に来たのに、これじゃ意味が無い。
「紅葉さんとの特訓で……へへ」
ざわついた気持ちを隠すように笑うと、首領は何やらブツブツと呟いた。
「紅葉くん……女の子に怪我させちゃ駄目じゃないか……」
「あの、何か?」
「否、何でもないよ。薬を出してあげよう」
首領が言うと、エリスちゃんが何処かへ走って行き、薬の入った袋を渡してくれた。有難う、と彼女に目線を合わせてお礼を言う。
「明日から仕事を出すから、今日は休んでいなさい。善いね?」
「はい……」
この位の傷なら、と思ったが首領命令では仕方無かった。