第10章 黒山羊さんからのお手紙
ぎゅっと閉じた目を開くと、刀はわたしの首元数cmの所で止まっていた。
紅葉さんがふぅっと息を吐く。
「どうやらここまでの様じゃの。そなたの負けじゃ」
「殺されるかと思いました……」
「殺しはせんよ。防御が甘いのじゃ」
立てるか? 紅葉さんが手を差し伸べてくれる。わたしはその手を取って立ち上がった。
「銃よりも体術とか剣術をやるべきでしたね……」
失敗しました、と苦笑いすると不機嫌そうな顔になった紅葉さんから強いデコピンを食らった。
「痛っ!?」
「そなたにはそなたの善い処がある、全てを欲張ろうとするでない」
弱さは自分の強みを伸ばして補うしか出来ない。紅葉さんはそう云った。
「これからみっちり鍛えてやるからのぅ。覚悟は良いか?」
「……はい!」
「善い返事じゃ」
ころころと紅葉さんが笑う。釣られてわたしもくすくす笑った。先程までの戦闘が嘘のようだ。
「そうじゃ、そなたの異能で怪我を治したらどうじゃ? 痛々しくて見ていられぬわ」
「あ……。わたしの異能、自分自身には使えないんです。他人に移すしか治す方法無くて」
しかも治りも微妙に遅いんです。そう笑うと、紅葉さんは少し眉根を寄せた。
「なら私が手当しよう」
「えっ! 否、わたしの怪我ですし自分で……!」
「そなたに怪我をさせたのは私の異能じゃ。少しくらいやらせて欲しいのぅ」
「う……」
こう言われてしまうと断れない。わたしは「お願いします……」と怪我をした両腕を差し出した。
くるくると紅葉さんは慣れた手つきで包帯を巻いて行くが、如何せん切り傷が多過ぎる。あっという間に全身包帯まみれになってしまった。
「おやまぁ、まるで太宰のようじゃの」
「……はは、そうですね」
「そなたは奴と知り合いなのかえ?」
紅葉さんに聞かれ、わたしは言葉を濁した。
「ま、まぁ……恋人だったというか」
「別れたのかえ?」
「別れた……のかはちょっと謎ですけど……。どうなんでしょうね?」
「私に聞かれても分からんのぅ。そなた等の問題じゃ」
「ですね……」
「ほれ、怪我人は大人しく部屋で休んでおれ。そなたの部屋は真っ直ぐ行った左側じゃ」
「は、はい! 有難う御座いました!」