第9章 深夜零時、闇。
【中原side】
拠点に着き、俺は泉をゆっくりと地面に下ろした。
「着いたぞ」
「本当に速かった……」
未だにぽかんとしている泉に苦笑が漏れた。ここまで素直に云われると少し調子が狂う。
拠点の中の長い廊下を歩きながら俺は云った。
「急な話だし、手前の部屋は未だ用意されてねェ。今晩だけ俺の部屋で寝てろ」
「え、中也さんの部屋ですか?」
「厭なら他の誰かに任せる。まぁマフィアをやってる奴らだ、芥川以上に厄介なのも居るかもしれねェぜ?」
ニヤリと笑みを浮かべると、泉は「否、中也さんの部屋で構いませんけど……」とあっさり答えた。
「なら善い。手前は寝台を使え、俺はソファで寝るから」
俺の言葉に泉がぎょっと目を見張った。何を云っているんだ、と言わんばかりの顔だ。
「絶対駄目です。中也さんが寝台使って下さいよ」
そら来た。俺は不機嫌丸出しで答えた。
「今夜一晩だけだろうが」
「一晩でも体壊しますよ。寝るならわたしがソファで寝ますから」
「阿呆。手前こそ体壊したらどうすんだ」
此のままでは埒が明かない。そう思っていると、泉がぱっと目を輝かせた。名案を思いついたときの顔だ。そしてこの時の泉は必ず余計な事しか思いつかない。
「じゃあ、一緒に寝ますか?」
「……」
其れならお互いの希望は叶えられるし、問題は無い筈です。そう云い切った泉に疑いの念は見受けられない。俺は大ーきく溜息を吐いた。
「…………はぁ…………」
「な、何ですか……」
此奴は莫迦だ、男と女をまるで判ってねェ。俺は溜息を吐きながら云った。
「……手前は女だろ。その時点で一緒に寝るって考えは先ず有り得ねェ」
「でも中也さんはわたしを襲わないでしょう?」
にこにこにこ。全く俺を疑わずにそう云い切る泉に、俺はがくりと頭を垂れた。
どれだけ俺は此奴に信用されているんだ。もはや悲しくなるくらい。
「良いから! 手前はベッドで! 寝ろ!」
「きゃ!」
ばふっと音を立てて泉はベットに倒れ込んだ。仕方ない、今夜は姐さんの所にでも泊めてもらおう。
「中也さんの意地悪ー! 意地っ張りー!」
「何とでも言え!」
バタンと力強く扉を閉めた。ミシッと扉が少し歪んだ。