第9章 深夜零時、闇。
「んじゃあ行くか」
「行くって、何処に?」
「決まってンだろ、俺達の拠点だよ」
付いて来い。中也さんはくるりと踵を返して先を歩いて行ってしまう。わたしも慌てて付いて行こうとしたが、ふと気になって後ろを振り返った。
『私の呼び出し以外では探偵社に来るな』
確か太宰さんはそう言っていた。……つまり、あの人はわたしを呼び出す可能性があるという事だ。
わたしは携帯を見つめた。……とっくに裏切った様なものだけれど、太宰さんや彼らとの繋がりを消すのは寂しい。嫌われるのも軽蔑されるのも自分が悪いけど、でも、彼らに会える唯一の方法を捨てきれない。
それがマフィアへの裏切りだとしても。
「……如何した?」
中也さんが立ち止まって振り返った。わたしが携帯を握りしめて後ろを振り返っているのを不審に思ったのだろうか、ゆっくり歩み寄り、わたしの手から優しく携帯を奪った。
「……っ」
「今の手前は何処にいる? 所属は何処だ?」
「っ……。ポート、マフィア……です」
「そうだ、それさえ言えれば良い」
中也さんはわたしに奪った携帯を返してくれた。ポンッと軽くわたしの頭を叩き、彼はまた先に立って歩き出した。
また付いて行く為に駆け足になると、不意に彼が立ち止まった。其の勢いで思い切り鼻の頭をぶつけた。同じくらいの身長だから帽子に当たったらしい。
「一寸、いきなり止まらないで下さいよ……」
「歩いて行くと時間かかりそうだな……。よし」
中也さんはわたしの苦言など聞かない振りなのか、くるりと此方を振り向いた。
膝の裏と背中に腕を回され、所謂『お姫様抱っこ』をされた。嘘でしょ、わたし達身長差ほとんど無いのに! 矢張り鍛え上げているマフィア幹部は伊達じゃない。
「ちょ、中也さん!?」
「歩いて行くよりこっちのが速ェんだよ。異能使うからしっかり捕まっとけよ」
ダン! と中也さんが地面を蹴ると、わたし達二人はふわりと宙を飛んだ。
「凄い、空飛んでる!」
「俺の異能見るの初めてだったか?」
「はい! 空を生身で飛ぶなんて初めて!」
中也さんの異能は知っていたが、応用して空を飛べるなんて思わなかった。横浜の街がキラキラと眼下に広がる。
「綺麗……。まるで宝石をぶちまけたみたい」
「宝石箱の中じゃねェのか」
中也さんが苦笑した。善いじゃない個人の感想だもの。