第9章 深夜零時、闇。
【No side】
「もぉ、中也さんの意地っ張り」
泉は文句を云いながらもぞもぞと布団に潜り込んだ。布団は仄かに中也の香りがする。何だか落ち着く匂いだ。泉は疲れからかすぐに意識が沈んだ。
ミシッと扉が歪む音がする。泉の意識は物音がする度に浮上しては沈んだ。ずっと気を張った生活をしていた所為か、眠りはかなり浅くなってしまっていた。
「……誰かいる……?」
だが誰の気配も感じない。そうだ、此処はポートマフィア。わたしを狙う人は此処まで追って来る筈もない。泉は安心したのか、今度は先程よりも深い眠りについた。
***
泉が眠りについた頃、扉がゆっくりと開いた。
「おやおや、何とも可愛い女子でありんすなぁ。私の部隊に配属して貰うように首領に言っておきまひょ」
花魁のような言葉遣いの和装美女が泉の寝顔を覗き込んでいた。
「あんまし見んなよ姐さん。やっと眠ったんだからよ」
美女に苦言を呈すのは中也。美女は楽しそうに笑った。
「ほほほ。相当此の娘が気に入りの様じゃな、中也?」
「善いから、今晩だけ泊めてくれよ」
そんな会話をしていると、泉がもぞりと身じろぎした。眉間に皺を寄せ、少し夢見が悪いような表情だ。
「ん……太宰、さん……」
ポソリと呟かれたその名は中也の元相棒で彼女の恋人でもある男のモノ。
美女はそれを聞いてまた面白そうに笑った。
「おやまぁ。この子お主の相棒が好きな様じゃな?」
「知るか。此奴は俺とマフィアを選んだんだ、あの青鯖の事なんざ忘れさせてやる」
「ほほほ。お熱いのぅ」
パタンと扉が閉まる。それと同時に泉の目から涙が零れた。
「ごめんなさい……」