第7章 傷心、迷走
探偵社を抜け出し、わたしは横浜から離れた所で美容院と服屋に入った。腰まであった髪を肩辺りまでばっさりと切り、着ていた服も全て変えた。
スカートが主だったわたしはパンツスタイルやコートと言う、いかにも男性的な格好に成り代わった。
見た目は大丈夫だが、わたしには金銭面の心配があった。銀行口座にお金は入っているけれど、それが尽きたら盗みを働くか野垂れ死にしかない。流石に死ぬのは厭だし、かと言って盗みを働くのは犯罪だ。
困ったわたしは取り敢えず職を見つけようと更にそこから離れてみたが、根無し草を雇ってくれるような優しい店も職場もなかなか見つからない。そうこうしている内に資金は着々と減っていく。さてどうしたものか、と考え込んでいると後ろにピタリと誰かが着いた。体格的に男だろう。
「お前、異能持ってるって?」
「!」
何故それを知っている。わたしの異能を知るのは探偵社とマフィアの一部だけなのに。何処からか情報が漏れた? 否、あの人達が漏らすような真似をする筈はない。じゃあ何故。
「ライブラリって便利だよなァ? 人を殺すも生かすもお前次第だ、さぞかし重宝してるんだろなァ?」
「何が云いたい」
「俺と一緒に来いよ、お前と俺なら世界の天下を取れる」
わたしは大きく溜息を吐いた。何でわたしに近付く輩はこんな奴ばかりなのだろう。
「お断りするわ。わたしはこれを人殺しの為には使わないと決めてるの」
「ンな甘っちょろい事言ってたら殺されるぜ?」
「あら、じゃあ殺してみたら? ──やれるものならね」
伊達に二対一で戦っていないのだ、一般人など最早怖くも何ともない。と、思っていたのだが。
「うっ!」
ズダァン、と大きな音を立ててわたしは地面に打ち付けられた。その上に男が馬乗りになる。まずい、本能的にそう感じた。
男は異能無しの一般人のようだが、かなり体を鍛えているらしい。普通の女に毛が生えたくらいの腕力しかないわたしでは到底力で勝てる筈が無かった。
「如何だ、これでも断るのか?」
「当たり前でしょ、しつこいわよ」
「テメェ……!」
男は馬乗りになったままわたしの首に手をかけた。ぐっと力強く締められ、わたしの目からは涙が零れた。
──その後の記憶は余りない。気付いたら男は首を切られて倒れてて、わたしは血まみれのナイフを持って返り血を浴びていた。