第1章 出逢い
「来るのは二回目ですね」
彼にお茶を出し乍らわたしはそう切り出してみた。だが、彼は首を横に振って否定の意を表す。
「あの時は私気絶してたし、数に入れるのは違うと思うのだよ」
「そんな拘る事ないじゃ無いですか」
呆れつつ紅茶を一口飲む。彼には珈琲を出してある。
「そう云えば、泉さんは私の名前を一回も呼んでくれないよねェ?」
「……名前は知ってますよ」
「じゃあ呼んでくれ給えよ。私は君に呼ばれたいんだからさ」
敦くんのことは名前で呼んでるんだし? と付き合ってもいないのに一丁前に嫉妬している。此の人本当に面倒臭いな。
「……太宰さん、でいいですか」
「えー。どうせなら治♡って可愛く呼んでよ〜」
「却下」
「ちぇっ」
軽い舌打ちの後、彼──太宰さんはふっと真顔になった。自分のカップをテーブルに置き、わたしが持っていたマグも取り上げて置いた。
「太宰さん……?」
「ねぇ。君は何時も、こんな無防備に男を上げて居るのかい?」
「どう云う──」
どう云う意味。わたしがそう問い掛ける前に、彼の整った顔が視界いっぱいに広がった。次いで唇に感じる柔らかい感触と仄かな珈琲の苦味。接吻された、と気付くのに十秒ほど要した。
うあ、あ、と変な声が出る。太宰さんは依然距離が近いまま首を傾げた。
「如何かした?」
顔が熱い。身体中の熱が顔に集まっているのが自分でも分かる。多分、今わたしの顔は真っ赤に染まっているだろう。
「……え?」
太宰さんの顔が驚きの色に染まる。何時も気怠げな瞳はこれでもかと云わんばかりに見開かれていた。