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徒然なるままに【文豪ストレイドッグス】

第1章 出逢い


「……付き合う?」
「そう。名案だろう?」

 ドヤ顔で云う辺り、彼は恐らく阿呆なのだろう。

「……死にたかったんじゃ無いんですか?」
「うん、そうだよ」
「じゃあ何故?」
「君の優しさに撃たれたって所かな」

 何だその理由は。お巫山戯にも限度があるだろう。

「ね、頼むよ」

 美形に迫られてクラっと来ない女は居ない。実際わたしも少しは揺らいだ。はぁ、と溜息を吐き、わたしは最大の譲歩をした。

「……一週間」
「え?」
「一週間でわたしを落として下さい。落ちたらわたしの負けです」
「つまり、君が落ちたら私の彼女に成る、と?」
「……まぁそう云う事です。でも落ちなかったら成りませんからね」

たった一週間で女を落とすなんて、幾らこの人が美形だろうと無理だろう。苦肉の策でそんな勝負をけしかけたが、勝負は仕掛けた方が負けるのが定石だと言う事を、此の時のわたしは忘れていた。

***

 其れから毎日のように彼はわたしに逢いに来た。

「また来てるわよ、彼」
「またか……」
「如何する? また裏口から出る?」
「……裏口から出ても無駄なのよね。あの人妙に鋭くて」

 ある時は薬局の入口に。又ある時はもう一つの仕事場である図書館に。わたしの予定を把握しているかのように、彼は完璧に現れてみせた。最早恐ろしい。

「泉さん、そろそろ付き合う気無い?」
「有りません。貴方こそ、いい加減に諦めたら如何です?」
「嫌だ」
「じゃあわたしも嫌」

 そんな会話をしていると、何時の間にかわたしの家に着いている。何時もそう。彼はわたしを家の前まで送り届けると、「じゃあね」と何事も無かったかの様に立ち去るのだ。
 何時も此れでは流石に申し訳無い。わたしは立ち去ろうとする彼の背中を呼び止めた。

「あの!」

 彼は振り向かない。何よ、何時もわたしを追い掛け回してる癖に。こう云う時だけ振り向かないなんて卑怯よ。

「……何時も送って貰ってるのも悪いですし、お茶でも飲みませんか?」

 彼は振り向かない。

「そろそろ一週間経ちますよ。真逆、此のまま諦めるんですか?」
「……狡い云い方するなぁ」

 やっと振り向いた彼は何時もの食えない笑みでは無く、柔和な、優しい笑顔だった。

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