第7章 傷心、迷走
そう呟くと、太宰さんはまたわたしを抱き締めた。そのままもぞもぞと布団に潜り込んでくる。
「え、ちょ」
「君は何時までもウジウジしているから、私と添い寝の刑だ」
「何ですか其れ……」
そもそも、其れじゃ刑罰にはならない。そう云うと太宰さんは確かにねと笑った。
「君が出来たことは一つ有るだろう?」
「……?」
「私を救い出してくれた事さ」
太宰さんはにこりと笑ってそう云った。
「あのまま野放しにしておけば、横浜は彼奴の支配下に置かれていただろう。其の内、世界中があの男の手中に落ちていたに違いない。君は其れを未然に防いだんだ。──君の気持ちをスッキリさせた事は、結果的に世界を救う事になったのだよ」
まぁ少しばかり手荒だったけど。太宰さんはそう云って苦笑いを零した。
だが、其れでもわたしの気持ちは晴れなかった。人を人形にすると云う事は、其の人を一度殺したも同然なのだから。
……そうだ、大事な事を聞き忘れていた。
「あの、太宰さん」
「ん?」
「わたし、人形になってたんですよね? 如何やって彼処から脱出したんですか?」
嗚呼、と太宰さんは頷いた。
「何か男とも女とも取れない人が人形になった君を抱えて出て来たんだよ」
宙に浮かんでいるから異能力者かと思ったけど違うらしいし。太宰さんは顎に手を添えて考え込むポーズを取った。
「其の人が君を抱えて飛んで来てね。『此の中に異能を無効化出来る人は居るかい?』って聞いてきてさ。そんなの私しか居ないだろう? だから直ぐに君に触れて異能を解除したんだ」
其の後、君は出血多量で死にかけだって云われたから、探偵社の皆で君を社まで運んだんだ。太宰さんはそう云った。中也さん達は一応社まで来てくれたが、仕事だと云って帰ったとか。
「……其の人、名前とか名乗りました?」
「一応聞いたのだけどね。『私? 私は神様!』なんて云うから無視して来てしまったよ」
……自称神様じゃん! 助けてくれて有難うね! わたしは半ばやけくそになりながら心の中でお礼を云った。