第6章 傀儡師
ダァン。銃声が倉庫内に響いた。右脇腹が熱い。次いで直ぐに痛みが来た。熱さと痛さが絡み合って声を出すのも辛い。
熱い、痛い、熱い。わたしの膝はその熱さと痛みに耐え切れず、がくりと地面に沈んだ。けほ、と咳をすると口から血が出た。どうやら肺に撃たれたらしい。暗い灰色の床が赤黒い血に染まった。
「泉!」
「……だざ、さ……」
「喋るな、喋ったら死ぬだろう!」
「怪我……ない、ですか」
太宰さんがわたしの肩を軽く抱く。
「私は無事だ、中也も敦くんも! 怪我をしたのは君だけだ!」
「そっ、か……。善かった」
「善くないだろう!? 与謝野さんに言って直ぐ手当てを」
「させると思うのか?」
仮面男がニヤリと笑い、マッチを擦って火をつけた。ポトリと其れを落とすと、あっという間に倉庫内は炎に包まれた。
「とある伝手から少々薬物を頂いてな。可燃性の液体だ」
此処から生きて出たければその娘を置いて行け。仮面男はそう言った。わたしを置いて行けば太宰さん達は助かるのかもしれない。でも此の男が素直に脱出方法を教えるなんて考えられない。だとすれば、唯一の方法は。
わたしはゆっくりと立ち上がった。「止めろ、傷開くぞ」中也さんが止めるが、わたしは聞こえない振りをして立ち上がった。足がふらついて焦点も合わない。けれど、其れでもやるしかなかった。
「……異能『人魚姫・氷柱』!」
出口付近の炎達は瞬く間に氷になり、突破口が開いた。水の温度を自在に変えられるこの力はかなり便利だと思っていたが、その目に狂いは無かったようだ。今もこうやって役に立っている。
「早く! 余り持たないから!」
「泉さんも!」
「……ううん、先に行って」
だって未だ此の男に一発も入れてない。お兄ちゃんだって元に戻してあげられてない。此の男の仲間になるつもりは毛頭無いけれど、其れでも最後に蹴りを付けなきゃいけない。そして蹴りをつけるのはわたしの役目だ。
「先に行っててください。わたしも後から直ぐに行きますから」
「でも!」
尚も敦くんは食い下がる。わたしは彼を安心させるためにふっと笑ってみせた。
実際笑える余裕なんてない。脇腹の熱と痛みは相変わらずだし、左腕の傷だって痛い。其れでも、わたしは精一杯の笑顔を浮かべた。
「大丈夫、直ぐに蹴りをつけて其方に行くから」