第6章 傀儡師
「っと、危機一髪って所か?」
「泉さん、太宰さん! 無事ですか!?」
「ち、中也さん!? 敦くんも!?」
わたしは宙に浮く中也さんに姫抱きにされていた。フード男のナイフを止めて弾いたのは両手を虎に変化させた敦くんだった。
「如何して此処に!?」
「私が呼んだのだよ」
ふぅ、と太宰さんが肩を鳴らしながら云った。どうやら操られた振りをして様子を見ていたらしい。
「呼んだって、何時?」
「先程ササッとね。でも私は中也を呼んだ覚えはないのだけど」
「操り人形が動いたって情報を掴んでな。芥川と来たんだが泉が危なそうだったからよ」
マフィアはマフィアで動いていたようだ。操り人形──仮面男が動いたら確実にわたしに接触する。わたしと会わせないようににする為と仮面男の持つ『marionette』を処分する為に先回りするつもりが、後手に回ったのだとか。龍は外で待機しているらしい。
探偵社は太宰さんの連絡で何人か集まっているらしい。福沢社長、国木田さん、鏡花ちゃん。そして此処に居る敦くんの四人。後の人達は社を守りつつ待機という事だった。
すとん、と中也さんはわたしを地面に優しく下ろした。わたしはスカートの裾を軽く破いて腕の止血を施す。
気付けばその間にぎゃんぎゃんと太宰さんと中也さんで喧嘩が始まっていた。今此処でする事じゃ無いと思うんだけど。
「これで振り出しね。形勢逆転って事で良いのかしら、里親さん?」
二人を無視して仮面男に告げると、彼はピクリと肩を揺らした。フードの男も少しだけ動揺が見えた。
「貴方、お兄ちゃんを引き取って行った里親さんでしょう? 其のフードを被った人はわたしのお兄ちゃんよね」
「……何処で気付いた?」
「戦ってる時よ。妹のわたしがお兄ちゃんを見間違える訳ない。其れに、お兄ちゃんを引き取った人と貴方の声が一緒だもの」
ニヤリと笑ってみせると、仮面男もまたニヤリと笑った。
「気付いたから何だ? お前が従わないと言うなら──」
未だ喧嘩を続ける二人──否、太宰さんにフード男の銃の照準が定められた。
「お前の恋人を殺すだけだ」
「……! 太宰さん、危ない……っ」
気付けばわたしは駆け出していた。ダァン、と銃声が倉庫内に響いた。